再読『「挫折」の昭和史』四(閑人亭日録)

 山口昌男『「挫折」の昭和史』岩波書店1995年初版を再読。「5 絵師と将軍」を読んだ。

《 結局は、柳田(国男)の民俗学は平地の稲作中心の都市的貴族的な視点から構築されたもので、小山(勝清)の山村の内側から掴みとってきた世界像とは所詮 折り合わなかったことから、小山が破門されたと信じ柳田の許を去った原因だろう、と高田宏は推察している。 》 153頁下段

《 尾崎(秀樹)は、この頃の雰囲気を、社会主義的なものも、民族主義的なものも未分化のままであり、ときには同一人格の中にこの二つの相反する傾向が同居している ことが多かったが、下中(彌三郎)の場合も例外でなかった、としている。たしかに大正から昭和初年にかけての時期についていえば、北一輝のような思想家にも、 二・二六事件の少壮将校にも、竹中英太郎についても、このことは当て嵌まる。当時の国家主義の形態は、その反映であろうと思われる。 》 159頁上下段

《  大正七年十月に満川亀太郎世話人老壮会という集まりが結成され、やがて下中もこれに加わった。(中略)下中はこの会を通じて大川周明とも親しくした。
  この老壮会という団体が右でも左でもなかったことについては、いくつかの証言が一致している。 》 159頁下段

《  大東亜協会が設立されたのは昭和八年三月であった。(中略)後にこの協会は大政翼賛会に吸収されるに至るのだが、下中はこの組織に熱意を傾けた。
  この頃の社会状勢の中で、軍人達とアナキストがかった社会主義者の接近が極めて顕著であった。戦後のマルクス主義の現代史家の目から見れば、それは転向であり、 右翼化であったが、既述のごとく、交友関係からみても、ラジカルな軍人とアナキスト国家主義者の間に明確な一線を画するのが殆ど不可能であったと言える。 発生期のファシズムの魅力と危険性はまさにそのあたりにあった。この逆説的な状況を理解しなければ、この微妙で蠱惑的な時代と多くの人物の理解も覚束なくなる。 》  172頁下段

《 本稿の文脈からいうと、もの皆満州へ、である。 》 158頁上段

《  昭和八年には『新青年』で夢野久作の『けむりを吐かぬ煙突』など、再び挿絵の世界に戻っている。
  昭和九年、(竹中)英太郎はとうとう渡満し、満州各地を歴訪している。桜会との接触以来、英太郎は挿絵を書くよりも、満州に新天地を求める心につき動かされた。 この頃の多くの日本人が、不況と不作地獄の日本に絶望し、満州を「王道楽土」と看做すユートピア観に取り憑かれていた。 》 173頁上段

 「6 ダダイストのような将軍の肖像」を読んだ。

《 それにしても、東条(英機)のしつこさ、陰険さ、想像力もユーモアも欠いた小心者の小役人根性にはおどろくべきものがある。たしかに、近代の高学歴者には二つの タイプがあるようだ。それはやはり、石原(莞爾)タイプと東条タイプで後者が勿論圧倒的に多い。 》 188頁下段

《 ライカのマメラを通じて、石原はエノケンと並んで揺籃期の昭和モダニズムの一部を形成していたとも言えるのである。そしてそれは、石原が示した航空機の未来、 原子爆弾、電子メディアなどについての予見とも見合うところがあるだろう。 》 201頁上段

《 石原がベルリン時代に遺した数多のエピソードは、石原の行動がすべて計算されつくしたダダイスト的パフォーマンスであったことを示している。 》 201頁下段

 「7 「夕陽将軍」の影」、「8 読書する軍人」、「9 実験的〈知〉の系譜学へ」を読んだ。「9」から。

《 これらの人間関係は戦後、敗戦ショックで見失われてしまっていたけれども、丹念に繋いでみると、戦時下の、誰もが苦しんでい時期の、知的感受性の歴史の匿れた 水脈を構成していることがわかる。戦時の怒号のディスクールを介しては表面化することはなかったし、戦後においては、戦犯告発という別の怒号によってかき消されて いた。 》 337頁下段

《 敗戦までの昭和は、これまで検討して来たように、昭和モダニズムに見られるようなこの時代が育んで来た最良質の部分を挫折させることにより、自らの可能性を 断ってしまった。(中略)我々の使う意味での「挫折」とは、あくまでも、より良質の知的・芸術的可能性の開花が妨げられることであり、権力の上に立つことに失敗する といった世俗的な事象とは殆ど無関係である。従って、その生涯に同情的であっても、また人間としての魅力を認めても、我々は甘粕正彦の挫折ということは口にしない。  》 337頁下段-338頁上段

《 さらに言い換えれば、藩閥体制の呪縛を払いのける可能性の在りどころが見えてくるのである。 》 338頁上段

 ふう。残りは「補遺1」「補遺2」。

 ネット、うろうろ。

《 きっと「日本国憲法は戦後が終わったためシュレッダーにかけられており、世間に出回っている写しは憲法ではない」とか云い出すぞ。奴ら。 》  津原泰水=やすみ
  https://twitter.com/tsuharayasumi/status/1204117424317943810

《 安倍政権が10日、反社は「その時々の社会情勢に応じて変化し得るもので、定義は困難」との答弁書を決定。ただ、そもそも反社を指針で定義したのは… 第1次安倍政権時でした。 》 毎日新聞
  https://twitter.com/mainichi/status/1204380215255826432

《 論点ずらしの詭弁。「その時々の社会情勢に応じて変化し得るもの」だから反社の定義は困難というなら、現時点での反社とは何かはには答えられるはず。 政府はそういう連中が含まれていたかどうかも答える義務がある。RT - 毎日新聞 》 小松崎拓男
  https://twitter.com/takuokomart/status/1204565171416354817

《 何が「反社会的勢力」かを定義できないならば「組織的な犯罪集団が関与する重大な犯罪を共謀した場合」などと定義している共謀罪はどうなるんだろう。 》  武田砂鉄
  https://twitter.com/takedasatetsu/status/1204292725308194816

《 「反社会的勢力の定義とはその時々の社会情勢に応じて変化」させるので、「憲法改正という社会的命題に反対する個人・集団は反社会的勢力である」 と今年度中には閣議決定されます。そして「反社会的勢力と関係した」と見做された個人・組織を排除し、改憲が可能になります。ナチスの手口の完成です。 》  RYUK_Hilander2
  https://twitter.com/RHilander2/status/1204380043075452929

《 「安倍昭恵氏が私人か公人か定義するのは困難」と閣議決定しそうだ。 》 松尾貴史「違和感のススメ」
  https://twitter.com/Kitsch_Matsuo/status/1204456968569540608

《 桜を見る会の反社招待を正当化するためだけに、今まで反社と戦ってきた数多の人々の努力を無にしやがった 》 \江戸西/
  https://twitter.com/edonowest/status/1204274806884986881

《 桜を見る会「私自身の責任で招待基準を明確化」。何という戯言を。安倍首相が責任を取るとは、直ちに退陣することだ。誰かはっきり教えてやれ。 》 m TAKANO
  https://twitter.com/mt3678mt/status/1204175870794985472

《 法を守る気もなく、嘘しかいわない男が「憲法を改正する」とほざいたところで誰が相手するか。嘘にも飽きただろうから、たまには本当のことをいうがよい。 「日本がどうなろうと、知ったこっちゃない」と。 》 島田雅彦
  https://twitter.com/SdaMhiko/status/1204031807441653760

《 少なくとも現時点まで安倍政権に投票し続けた日本の人々は、のちのち、ある時代状況下で抜け出し難い集団心理に陥った一群として、「ストックホルム・ シンドローム」みたいな名前が与えられ、研究対象になる気がします。 》 会田誠
  https://twitter.com/makotoaida/status/1204357528831676416