『死霊 七章《最後の審判》』四(閑人亭日録)

《 あっは、理解できるかな、個と他と全体、自己存在と他存在と全存在の融合をすでに遠く実現してしまったこの俺が! ぷふい、貪食細胞の忌まわしい出現のずっとずっと前に深い深い真っ暗な闇の地底にだけ住んでいた俺は、これまでの全生物のすべてに知られていないので、この俺自身がその俺自身をあえて命名してみれば、ほら、聞いているかな、虚膜細胞とでも呼ぶべきものなのだ。 》 110頁

《 ここまで述べると、長く話し続けてきた息を整えるように、矢場徹吾は暫く言葉を切った。 》 115頁

《 おお、無出現の思索者であるこの俺はこれまでに絶えず、いいかな、必ずと確言していいほど、必ず、いままでにまったく「ない」宇宙を新しく創りつづけてきたのだ。 》 121頁

《 あっは、実在とは何かな、亡者共よ。 》 122頁

《 おお、いいかな、「無出現の思索者」であるところのこの俺こそは、ぷふい!「無限大」と「零」をかけあわせたところにこそなりたっている、全宇宙史のなかの「単一者」で、しかも「零」と「無限大」がこの俺の母であるかぎり、俺は正と負と非の全宇宙の何処かの秘密な暗い内部にこそ永劫に隠れつづけていなければならぬところの「絶対に見えざる不可触不可思惟の絶対一者」にほかならぬのだ。 》 127頁

《 おお、愚かなるものよ。ほかならぬその自己存在に「満たされざる魂」を確然と封印されたはじめのはじめのはじめの本源的事態こそ、「無限の自己超出」の永劫連続の絶ゆることなき強靭無比な持続力のみを携えるに到る筈だったことにどうして気づかなかったのだ。 》 132頁