『山崎方代全歌集』再び・二(閑人亭日録)

 昨日のつづき。付箋を貼った後半。

  ようやく鍵穴に鍵をさし入れるこの暗がりのうらがなしさよ

  なんとなく泣きたいような気持にて揚げ玉を袋につめてもらいぬ

  こんなにも湯呑茶碗はあたたかくしどろもどろに吾はおるなり

  無情とはかかわりもなくあんぐりと砂をつめたる貝ころがれり

  踏みはずす板きれもなくおめおめと五十の坂をおりて行く

  還暦の祝いの酒を買って来てひとりぽつんとかたむけており

  みかん箱ふせたる上に絶望の箸と茶碗が並びおる

  広辞苑辞書を枕に駆け巡る半偈の夢を見ることにする

  ことことと雨戸を叩く春の音鍵をはずして入れてやりたり

  そなたとは急須のようにしたしくてうき世はなべて嘘ばかりなり

  欄外の人物として生きて来た 夏は酢蛸を召し上がれ

 「欄外の人物」。これは効く。深く響いてくる。嘆き節ではない、ほろ苦い可笑しみ。諦念でも諦観でもない。いろいろあった。これからの生き方を思う。
 「熾2018年10月号掲載 現代ストレス人に捧げる山崎方代の癒やし歌」が興味深い。
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