『山崎方代全歌集』再び(閑人亭日録)

 本棚から『山崎方代全歌集』不識書院 一九九六年一月二〇日二刷を本棚から取り出す。いつ読んだか忘れてしまったが、前半の全歌集の頁には付箋が林立。そこを辿ってみる。

  東洋の暗い夜明けの市に来て阿保陀羅経をとなえて歩く

  茶碗の底に梅干の種二つ並びおるああこれが愛と云うものだ

  かぎりなき雨の中なる一本の雨すら土を輝きて打つ

  一枚の手鏡のなかにおれの孤独が落ちていた

  ねむれない冬畳にしみじみとおのれの影を動かしてみる

  かたわらの土瓶もすでに眠りおる淋しいことにけじめはないよ

  遠い遠い空をうしろにブランコが一人の少女を待っておる

 しみじみ心に沁みる。少女の短歌など、味戸ケイコさんの絵を想起させる。「おる」が効いている。