9月 1日(火) 撤収

 夏が戻ったよう、きょうは暑い。展示品を撤収。ふう、暑い。こういうときにかぎって知人たちが来館。撤収完了せず。

 小西甚一「日本文学史講談社学術文庫は、あっと驚く卓越した指摘が随所に見られ、メモが忙しい。

「かれの作品は、平淡よりも、むしろ平凡に陥った。それにも拘わらず、かれの歌壇的地位の高さは、当時のひとたちに、平凡な歌風を権威あるものと思わせ、それが主流をなすにいたった。」61頁

「写実ということが事象のありのままを写すよりもむしろ事象のもつ意味を把握する態度の真実さに在るとすれば、まさしく『源氏物語』は写実主義の作品である。」68頁

「幽玄という美的理念は、上述のごとく、人によって用法がかならずしも同じではないけれど、いかなる用法においても共通するのは、『深さ』という性格である。これを把握態度のほうから考えると、対象への『深まり』にほかならぬ。作者と対象や、精神と自然との間にある距離を超えて、ひとつになってゆく表現、それを推し進めるのが『深まり』の態度なのである。」78頁

連歌の美は、花や鳥の美しさでなく、花らしさや鳥らしさの美しさなのである。」117頁

 などなど、引用するときりがない。ドナルド・キーンも解説で私の引用と同じ連歌の箇所を紹介し、「これはすばらしい着想であると思う」と賞賛。「近代」については短い記述だが、シナのみならず西洋文学にも親炙していたゆえ、鋭く深い分析がなされている。日本文化の特質を考えるうえで多くの示唆に富んでいる書だ。