『日本文学史序説 上』五

 加藤周一『日本文学史序説 上』ちくま学芸文庫2009年8刷、「第五章 能と狂言の時代」を読んだ。

《 日本の禅僧の水墨画と禅との関係はあきらかでない。少なくとも最高の画僧、雪舟の山水と禅との内面的な関係は、 具体的に指摘することができない。 》 362頁

《 そもそも日本思想史上、超越的絶対者との係りあいが時代思潮の中心となったことは、ただ一度一三世紀仏教において であって、それ以前になく、以後になかった。 》 364頁

《 室町時代禅宗の日本文化への大きな貢献の一つは、同性愛詩文の発達である。これが一六世紀末から徳川時代へ かけての武士社会に継承されたことはいうまでもない。 》 366頁

《 かくして鎌倉時代以後の禅宗は、一方ではその寺院が、政治権力と癒着し、他方ではその思想が、文学となり、絵画と なり、遂に一種の美的生活様式となり、独特の美的価値に化した。室町時代の文化に禅宗が影響したのではなく、禅宗室町時代の文化になったのである。すなわち宗教的な禅の、政治化と美学化を内容とする世俗化。何がこの世俗化を推進 したか。おそらく日本人の意識の深層に持続していた──鎌倉仏教にも拘らず──此岸的・世俗的・土着的世界観以外の ものではなかったろう。 》 369頁

《 過去は水に流し、未来はこれを憂えない。そういう時間の流れのなかで、一四・五世紀の日本人は生きていた。そういう 時間の文学的表現が連歌であり、『徒然草』であったろう。『徒然草』は散文化された連歌である。 》 374頁

《 連歌は宮廷貴族の文化が大衆化したものであり、能狂言はもと大衆の見世物が洗練されて支配層の支持を得たものである。 前者は、文化の上から下への普及を、後者は下から上への吸い上げを代表する。 》 378-379頁

《 (『葉隠』の著者は、南北朝の、応仁の乱の、戦国時代の武士を知らなかったらしい。もし知っていたら、「武士道とは 死ぬことゝ見つけたり」と書く代りに、「武士道とは裏切りと見つけたり」と書いたことだろう)。 》 388頁

《 「一向一揆」を除いて、この時代の大衆の反抗に、彼ら自身の独自の「イデオロギー」がみられないことには、すでに触れた。 大衆の偶像は、大衆のなかの一人ではなく、彼ら自身よりも上の階層の、理想化された武士であった。 》 389頁

《 封建制の時代のもっとも独創的な産物は、おそらく一四・五世紀の間に完成した「猿楽」(「申楽」とも書く)という 演劇である。それには二種類があり、歌舞を主とする一種の歌劇「能」(「猿楽の能」)と、対話を主とする笑劇「狂言」 (「猿楽の狂言」)である。 》 389-390頁

《 日本の一四・五世紀に、すなわち内乱と一揆の時代に、なぜこのような画期的なことがおこったのか。おそらくそれ以前に 芸術家を生みだしてきた階層とは全く異なる階層から、芸術家があらわれるようになったからであろう。 》 392頁

《 その理論的著作には、若干の仏教の用語が散見するが、仏教的世界観と戯曲の構造との根本的な対応についての言及はない。 仏教とその芸術との関係は、世阿弥において非自覚的であり、それ故に深かったのである。 》 401頁

《 このように「能」と「狂言」との対照は、言語・題材・演戯の様式にとどまらず、実に世界観の対照でもあった。 日本文学史のあらゆる時代に、外来の世界観(ここでは仏教)と土着の世界観とは併存し、それぞれの文学的表現をもっていたが、 一四・五世紀が特殊なのは、それが「猿楽」の二面性として同じ舞台にあらわれたということである。二つの世界観が二つの 階級に応じていたのではなく、同じ人間の意識の二つの層として存在したということを、これほど鮮かに示す事実はないだろう。  》 403頁

 ネットの見聞。

《 倒産寸前の東芝、その原因となった原発事業に猪突猛進していた頃の広告がこれ。この偉そうなコピーからも 異常なほどの前のめりぶりが伝わってくる。そして「原子力の全てを担いたい」の願望通り、 原発の衰退と共に会社も消滅するようだ。(2011年2月21・22日に日経・読売掲載、カラー15段) 》 本間 龍
 https://twitter.com/desler/status/831864777651556353

 東日本大震災の直前か。

《 金田法相、稲田防衛相の答弁迷走 野党「資質」を追及 》 東京新聞
 http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201702/CK2017021602000138.html

《 みんなで決めたのだから従わなければならないというのはファシズム的な部分がある。 なぜそのルールに従わなければならないのかを理論的に考えみんなが納得できるとしたときに、 はじめて民主的なルールというものが成り立つ。 》 エリック ・C
 https://twitter.com/x__ok/status/831684933772980224

《 居酒屋に限らず、名画座でも、小物屋でも、ライブハウスでも、寄席でも、喫茶店でも、 自分が愛してやまないお店が続いてほしいと願うなら、自分がそこに足を運び、気の置けない友達を紹介し、 その店の存続に貢献するのが、本当の常連のつとめだし、そういう常連の厚みがその町の文化の力だと思う。 》 松井孝治
 https://twitter.com/matsuikoji/status/831883877413105664

 ネットの拾いもの。

《 【徒歩で100km】廃線になる三江線の全駅を死にそうになりながら記録してきた 》 pato
 https://travel.spot-app.jp/sankosen_pato/

《 大人用紙パンツのCMでルンルン手をつないで散歩する夫婦をどこかで見たような、と思ったらチェリッシュの二人だった 》  junro hoshika(烏丸)
 https://twitter.com/staradd/status/831540991538589698