後半部の「日本文学全集篇」に続いて丸谷才一・鹿島茂・三浦雅士『文学全集を立ちあげる』文春文庫の前半部分、「世界文学全集篇」も読了。気宇壮大な企画にため息が出る。今の若手小説家への手厳しい批判が、鼎談の結びに発せられる。鹿島茂は言う。
≪彼らの教養を何が支えるかというと、社交界とかサロンでしょう。だからヨーロッパでは、音楽家だって、かなりの程度、文学がわからなきゃいけないんですよ。ところがいまの日本の小説を書きたいという連中はひどくて、無知であることを少しも恥ずかしいと思っていない。信じているのは自分の感性だけなんですよ。≫
受けて三浦雅士は言う。
≪その話の延長線上で考えてみると、昔と違って、いまの日本では音楽家、小説家だけじゃなくて、政治家にしても、教養というものが必要とされていないんだね。≫
丸谷才一は応える。
≪そうだよ、外国の首相が「源氏物語」のことを話しかけても答えられない。気のきいたことが言えない。≫
まったく、「信じている自分の感性」がいかほどのものか。
≪「心変わり」は日本の探偵小説作家があの二人称に刺戟されて小説を書いたね。えーと、名前出てこない。≫
都筑道夫『やぶにらみの時計』1961年だろう。中公文庫1975年の海渡英佑の解説より。
≪フランスのアンチ・ロマン、ミシェル・ビュトールの『心変わり』にならい、いわば実況放送スタイルにしたのだ、と作者は言っています。≫
ネット注文したアレッサンドロ・マンゾーニ『いいなづけ』河出書房新社1989年初版函が届く。1000円。「世界文学全集篇」で98巻に選出されたもの。訳者の平川祐弘は書いている。
≪イタリアの中等・高等教育の中で「制度」istituzioneの地位を占める文学作品は二つある。一つはダンテの『神曲』で他の一つはこのマンゾーニの『いいなづけ』である。≫
≪奥野拓哉氏によると『いいなづけ』は全世界で五百種類以上の飜訳が出ている由である。≫
鹿島茂の発言。
≪平川祐弘さんの素晴らしい訳が出ましたね。あれは面白い。イタリア文学といったら「いいなづけ」一冊でもいい。≫
本は手にした。さて、いつ読むのだろう。