「器のかたちをしたオブジェ」

《 つまるところ、人間の道具立てに二種類はないのである。道具立ては一式しかなく、同じ道具が、 ある時は生命の保持に用いられ、ある時は我々の大いなる冒険[六字傍点]のための幻想や仕事に 用いられるのである。 》 ポール・ヴァレリー「精神の自由」(『精神の危機』岩波文庫223頁)

《 かくして、我々はある種のかなり難しい問題を単純化し、行動と関係性をつかさどる器官を基点として、 高級[二字傍点]と称される活動と実践的あるいは実用的[三字傍点]と称される活動との間に存在する 類似性を明らかにすることができる……。
  どちらにも、使用されるのは同じ器官であるから、機能的な類似性、位相や力学的条件の一致が見られる。 一切は深いところから、実体的な淵源から出てきているのだ。なぜなら、統御しているのは同じ人体だから。 》  「精神の自由」(224頁)

《 今日、我々は(ニーチェの卓抜な表現を援用すれば)、真に巨大な価値の転換期に遭遇している。 》  「精神の自由」(225頁)

 「精神の自由」の冒頭の部分。にわかに換骨奪胎が閃いた。閃いただけだが、連想を深く刺激された。
 用の美、無用の美という分け方が私にはどうもしっくりこない。北一明の焼きもの(茶碗、器)を茶器の用の美から 鑑賞することに、以前も書いたが違和感を覚える。器というかたちをしたオブジェという視点から私は鑑賞している。 茶碗、器という用途は眼中にない。用の美、無用の美という分類がもうおかしいのではないか。手に持って茶碗を鑑賞する時、 触れる行為によって飲食の道具に意識が直結し、茶碗のかたちをした作品、という距離感が消失してしまっている。北一明は 茶碗をオブジェを創るためのテストピースと呼んでいたが、道具としての茶碗は二の次であることを仄めかしたかったのでは、 と思う。茶碗ならば売れるが、茶碗のかたちをした芸術品としたら売れたかどうか。私は茶道には全く興味がなく、今も無いが、 北一明の個展会場で茶碗を初めて目にした時、ひとつの芸術的なオブジェ作品と見た。茶の道具として、という考えはなかった。
 味戸ケイコさんの絵もそうだが、絵、作品の使用目的には私は関心がない。用の美、無用の美という分け方は、そろそろ効力を 失ってほしい。あるいはこうもいえよう。器というかたちの制約を超えていかに飛躍した芸術作品を創造できるか。俳句、短歌の 形式の制約からいかに言葉の想像力を飛翔させるか、と同じだ。古い革袋に新しい酒を盛る。
 北一明の茶碗のかたちをした作品には見るたびに魅了されるが、デスマスクには何ともいえぬ距離感が漂う。そこには 伝えたい意識がふつふつと漲っていて、それが自由勝手な私的鑑賞を妨げているようだ。焼きものにも思想表現ができることを 北一明は実証したが、それと美術的感動とは別のものだ。そんなことを反戦作品や原爆の図への違和感とともに思い起こした。
 味戸ケイコさんは当初、表紙絵が美術作品と見られるとは考えていなかったようだ。

 受け手、客は、作者、売り手の意図、目論見とはまるで違った見方でその商品、作品を捉えてかまわない。北一明のデスマスク、 デスヘッドを怪奇ホラー作品の類と見てもいい。それを間違っているとは、誰も言えない。

 ネットの見聞。

《 現代日本の哲学をつまらなくしている三つの症候群について  》 森岡正博
 http://www.kinokopress.com/mm/gendai02.htm

 美術についても同様な気がする。窪島誠一郎『絵をみるヒント』白水社2006年初版や椹木野衣・編『日本の美術 第十九巻  戦後〜一九九五 拡張する戦後美術』小学館2015年初版を私が評価する理由は、上記引用に記されている。

《 こんな「表明」は政治的な空宣言に過ぎない。戦うべき軍隊が存在しないのに「作戦を継続する」と言っているに等しい。 誰が、もんじゅの保安レベルを向上させるのか? 誰が、責任を持って運転するのか? 担い手のいない作戦は実行不可能か敗北する 》  春橋哲史
 https://twitter.com/haruhasiSF/status/731959901153427456

《 ちょっと今信じられないことが書店でおきたので書く。「日本会議の研究」先日あすわかの弁護士さんが日本会議のマメさが よくわかると紹介されてたので一応読んどこ、と思い書店に行くと注文できない、とおばさん。なんでも政府に批判的な内容だったので 差し止めになったのではないか、などという。 》 mina
 https://twitter.com/MinaMaeda/status/732023147759734784

《 『日本会議の研究』読書会〜出版差し止め要求記念 本書の読書会としては、日本ではじめてになるんじゃないかな。 徳島の方はぜひご参加を。 》 森哲平
 https://twitter.com/moriteppei/status/728078943257927680

《 伊東聖子『新宿物語』届く。中井英夫と思しき人物・北条隆が登場する。北条さんの弟子で自分の小説集の帯を書いてもらったJ、 とは誰だろう。そんな小説集があったかな。 》 藍川蘭
 https://twitter.com/ran_aikawa/status/732044435534446592

 『新宿物語』、昔読んだ記憶。中井英夫が推薦の帯を書いた本には石井辰彦『七竈』深夜叢書社1982年初版があるが、これは短歌集。 帯はジャケットに印刷。その前半。

《 かりに冥府で釈迢空三島由紀夫とが額をあつめ、沈滞した歌壇に活を入れるべく若武者のひとりを地上に送ってよこしたなら、 その作品は石井辰彦の「七竈」以外には考えられない。 》

《 萌え絵で読む虚航船団 》
 http://www.geocities.jp/kasuga399/oebi_kyokousendan1.html

 ネットの拾いもの。

《 育ちが悪いのはお前の胸だろ!嫌いじゃないが。 》

《 子供の頃から雑草や虫が好きで、常に下を向いていたので、お金を拾うことが異様に多かった。 いまも下を向いて歩いているのだけど、何故かお金を拾うことがない。人間がお金を落とさなくなったのかな。 》

《 連れ「なんでこんなに並んでるの?今日若冲来るの?」 》