「ライト・ヴァース」

 『現代詩手帖』1979年5月号思潮社、特集「ライト・ヴァース」。巻頭は谷川俊太郎川崎洋新倉俊一の鼎談。

  川崎 ライト・ヴァースというのは、ハイ・ヴァースがあって、それでライト・ヴァースなんですね。
  新倉 そうです。ロー・ヴァースというか。
  川崎 昔はイギリスでも、ライト・ヴァースと言うとき、 high の反対が low で、ライト・ヴァースというのは、 ロー・ヴァースという認識があったんでしょうね。
  新倉 オーデンは、エリザベス朝までの詩は民衆と直結していたからチョーサーの詩でもなんでも悉くライト・ヴァースだと 言っています。そういう考え方に立つと、現代詩は難解になってきて民衆と遊離しているからライト・ヴァースは 書きにくい時代ですね。
  谷川 そうですね。同時代の詩からライト・ヴァースを選びにくいのは、どれも難解というか、詩を扱う手つきが ライト・ヴァース的とはいいがたい。  8頁


  谷川 その軽みというのはある種の成熟を伴ってないといけない軽みでしょう。つまり軽薄な軽みでは困るんでしょう?
  新倉 ええ。いわば貴族社会(サロン)の言語遊戯という感じね。ある意味では軽薄なんだけど、知的なソフィスティケーション が働いている。(略)
  新倉 意図的にそれを出すか、たまたま結果的にそういうものが出てくるかによって詩の種類が別れるかもしれませんね。   9頁


  新倉 インテレクチュアルな要素がなくて深い笑いがあることはあまりあり得ない。普通笑いがあるとかライトだというのは、 たいていロー・ポエトリーの方を指しているんですけど、それだけではライト・ヴァースは成立していないんです。もっと ソフィスティケイトしている。  20頁


  新倉 やはり片方に真面目な詩があって初めてライト・ヴァースは成立するのね。
  谷川 イギリス流のコモン・センスがないとライト・ヴァースも成り立たないというふうにいえますか?
  新倉 それは絶対にそうだと思います。笑いはもともと公共的なものです。
  谷川 だとすると日本はコモン・センスが相当混乱してきている感じがしますね。
  川崎 それぞれにセンシティブはあるんだけどね。  21頁


  新倉 藤富保男の詩はどうですか?
  谷川 ぼくは大好きなんだけど、ライトというには余りにも統辞法を無視しすぎて前衛的というか……。
  川崎 でもなんか入れたいですね。  22頁


 三人が選んだ詩から一篇。「国旗」近藤 東。


   セガレよ きょうはメデタイ日
   なぜ 白旗を あげるのじゃ
   いいえ トウサン 日の丸の
   赤を 追放したまでじゃ


 加島〈求めない〉祥造の寄稿「むかしの小さな試み」から。

《 ライト・ヴァースの軽さとは詩の表現の軽妙さをさすのであって、詩の主題の軽さを指すのではない。それは深刻とされる主題 ──愛や死や苦悩──を扱いうる点ではハイ・ヴァースと少しも変らない。 》 103頁


 先月30日にふれた藤富保男も「詩の光沢」を寄稿している。

《 ぼくはライト・ヴァースなんていう英語はあんまり好きではない。大体、「ライト」なんていうと、本来の「軽い」意味なのか、 明るいのか、Rで耳にすれば「正しい」詩なのか、どうもピンと来ない、なんていうつむじまがりが大声でいう必要はまあ ないかもしれないが、藤富流にいうと「軽業詩」ということになるだろうか。 》 112頁


 藤富が紹介している詩「泪」伊藤勲。


   ハンカチーフで泪をふいてはいけない

   泪がよごれる


 現代詩文庫57『藤富保男詩集』思潮社1973年初版から短い詩「花」。


   行く


 この一行だけ。もう一つ「ナ」。


   ナイフをみがいている
   美しい白の青年がいた

   錨のようなネクタイ

   前も後も檻であった


 勢いでもう一つ「六」。


   六時に女に会う
   女と会う
   一人の女に
   一人の六時に
   一人で六時のところに立って


   六時だけが立って
   誰もいない


 四月というのに嘘みたいに寒い雨の一日。箱根は雪景色。「原始の記憶 白砂勝敏彫刻展@モンミュゼ沼津庄司美術館」、 明日かな、行くのは。
 http://ameblo.jp/steampunk-powerstone-art/entry-12261473068.html

 ネット、いろいろ。

《 頼むよ…4/1にいろいろ重大発表しないでくれよ…本当かどうか信じられないから… 》 ハンドパワー!!
 https://twitter.com/pirosi524/status/847867706070016000

《 本を読むのにも「体力」が必要なことを、40歳を過ぎて知りました。だから長編小説は若いうちに読んだ方がよいでしょう。 ただし近代文学の名著とされる中で、島崎藤村の「夜明け前」と志賀直哉の「暗夜行路」は、若くても体力、 いや忍耐力が必要だと思います。個人的には、過去に戻れたら読みません。 》 初版道
 https://twitter.com/signbonbon/status/847437352137924613

《 東京都庭園美術館「七宝並河靖之」展。精緻を極める技法に欧米各国からの需要があり、興隆したが、急速に衰退したとある。
  確かに凄いのだが、デザインが日本の絵画表現の引き写しで、飽きがくる。 抽象的な意匠やより個性的な表現を生み出せなかったのが敗因かな。 》 小松崎拓男
 https://twitter.com/takuokomart/status/846606550001106944

《 「美術史を見ると、百年後に残らなかった作品はたくさんあるし、百年後に初めて評価された作品もある。 美術に向き合う私たちは常に謙虚じゃなきゃいけない」 》 逢坂恵理子
 http://www.tokyo-np.co.jp/article/culture/doyou/CK2017031802000234.html

《 博物館事業への寄附について 》 東京国立博物館
 http://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1241

《 テロ等組織犯罪準備罪と名を変えた 共謀罪法案の国会提出に反対する! 》 海渡 雄一(日弁連共謀罪対策本部副本部長)
 http://satta158.web.fc2.com/docs/2017-kyobozai.pdf

《 食道癌治療のため現在入院です。 》 吾妻ひでお
 https://twitter.com/azuma_hideo/status/847673845972520960

《 「ソーンターク博士の事件簿」(東京証言社) 》 いかふえ
 https://twitter.com/ikafue/status/847109415278788609

 『ソーンダイク博士の事件簿』東京創元社創元推理文庫