『記憶と芸術』九(閑人亭日録)

 丸川哲史「戦前の記憶と戦後の生  太宰治における天皇・メディア」から。

《 これから述べることは、決して言葉遊びではない。すなわち、そのように始まった戦後民主主義なるものの複雑な曲折があり、そこで「人間宣言」ならぬ『人間失格』という題名の作品が書かれることになった、と筆者は考える。繰り返すが、天皇が自身は「人間になる」とは言ってなかったし、また事実としても「人間」にはならなかった。「象徴」という抽象的装置へと己を純化していったこと──このことによって、かつての「臣民」は、「国民」へと成長することができずに行き場を失った、とも言えるかもしれない。 》 371-372頁

《 明治以降、十五年と間隔を取らず戦争を重ねてきた日本は、その〈君主─臣民〉という動員装置を、ついに日本の民衆自らの手で解体することができず、うやむやの内に忘却(封印)してしまったかのようである。 》 373頁

 中村高朗・虎岩直子 編著『記憶と芸術 ラビリントスの谺』法政大学出版局2024年3月4日初版第1刷発行を読み終える。
 https://www.h-up.com/books/isbn978-4-588-41039-0.html

 午後、書斎の照明を電球から円型のLED照明に替える。壁の本棚が鮮明になる。活字や絵がはっきり見える。よかった。 百ワットの電球と併用して灯りの効果を楽しむ。