ゼロになるからだ

 昨夕帰りがけにブックオフ長泉店で三冊。斎藤美奈子『妊娠小説』ちくま文庫2008年9刷、中西進『日本人の忘れもの1』ウェッジ文庫2007年初版、和田芳恵『暗い流れ』講談社文芸文庫2000年初版、計315円。

 昨夜九時からNHKBSプレミアム「 Amazing Voice 」キューバ音楽の歌手特集を視聴。エレーナ・ブルケ Elena Burkeやオマーラ・ポルトゥンド Omara Portuondo など。エレーナ・ブルケについて《 男がひれ伏す女性歌手 》《 美人ではないが「いい女」》と案内役が述べていた。たしかに。前者が大輪の菊ならば後者は山百合だ。二人のCDを続けて聴いて深夜になってしまった。うーん、ここはラム酒が欲しいところ。

 覚和歌子『ゼロになるからだ』徳間書店2008年3刷を読んだ。沼津市のギャラリー・カサブランカの女主人が読んでみて、と貸してくれたもの。読んでみて、と置いていかれる本で、面白かった本はまずなかったけど、未知の人のこれは大当たりだった。物語詩とでも呼べばいいのだろうか。行分け詩なのだけれど、抒情詩、叙事詩からはみ出してしまう大事な部分がある。谷川俊太郎は解説で書いている。

《 覚さんは物語につかまえられながら、同時に詩もつかまえようという野心家だ。》

《 行分けをやめ。句読点をつけてみても、覚さんの物語は多分いわゆる短編小説とは似て非なるものになるだろう。》

《 詩の世界からというよりも、日本の語りものの伝統から覚さんは書き始めている。》

《 まじないや祈りや伝説が生きていた古代そのままに。》

 うまいことを言うわあ。4章に分かれているなかで、前半を占める1章「生きている不思議」に最も惹かれた。「鬼の素」「雪解け」「オリーブ」「おみやげ」なんか、ほとんど落語の世界。愉快愉快。いやあ、面白い。「秘かの桜」は、中井英夫ショートショート「天蓋」と対にしたい。2章「ゼロになる身体」の詩「火遊び」は、ライトヴァースの典型のよう。全編をとおして大いなる生・死のユーモアが感じられる。これはいい本を貸してくれた。

 『銀座ショートショート旺文社文庫1984年初版に収録の中井英夫「天蓋」を再読。「秘かの桜」とはいい組み合わせだと思う。

《 おじさんは失くした骨を無駄骨と呼んで/はなから必要なかった骨なのだと思うことにした 》「雪解け」より

《 それにしても結婚式と結婚生活っていうのは/同じ「結婚」ではじまる言葉なのに/まるっきり正反対の風合いなんだわね 》「拝啓 陶芸家様」より

《 カーテンコールはありません/そして あなたは知るでしょう/物語はいつも 終ってからが 本番です 》「三月のオペラ」より

 なでしこジャパンが予選突破。では「 タモリのウソ外国語によるサッカー実況中継 」を見るか。