「 香港 」

 邱永漢(きゅう・えいかん 1924- 2012)の直木賞作品『香港』(1955年下期) を読んだ。テキストは邱永漢『短篇小説傑作選 見えない国境線』新潮社1994年初版。
 1949年、台湾の官憲に追われた二十六歳の若者は香港へ逃げ、仲間が金持ちだと 言った四十がらみの男の家に身を寄せる。そこは貧民窟の真っ只中。素寒貧の二人の男。 四十男は言う。

《 「しかし、我々は誰からも保証されずに自分の力で生きてゆかなければ ならないんだ。我々は自由を愛して故郷を捨てた。我々は自由を求めて、この地に 来た。だが、我々に与えられた自由は、それは滅亡する自由、およそ人間として 失格せざるを得ないような種類の自由なんだ。こんな生活をしていて、まだ善良 なる市民の根性から抜けきれない奴はよっぽど無神経な野郎だ。我々には故郷も なければ、道徳もない。こんな世の中ではそんなものは犬にでも食われろだ。 金だ。金だけだ。金だけがあてになる唯一のものだ。」 》

《 「まあ、それもあるだろうが、しかし、君は悲哀というものを知っている。 悲哀を知っている人間は共産主義者になろうと思っても遂になりおおせないだろう。 なぜって、君、悲哀は人間性のもっともっと深い所に根ざしていて、社会制度を いくら改善したところで、解決ができないものだからな」 》

 昨日の五味康祐『麻薬3号』と同じ構図だ。金と売春婦と密輸。ここには麻薬は ないが詐欺がある。『麻薬3号』が地獄巡り、下り坂の小説なら『香港』は這い上がる、 上り坂の小説だ。

《 国民党政府に反旗をひるがえし、台湾を追われて香港に雌伏した著者は、昭和29年 再び日本の地を踏むや、胸にたぎる思いを一気に吐き出すように精力的に書きはじめた ── 》 帯文

 故種村季弘氏から聞いたが。種村氏が邱永漢の自宅でご馳走になった。邱は言った。 他所の店でご馳走するよりも料理人のいる自宅でご馳走したほうが安上がりだ、と。 種村氏は感心した。

 昼前、知人の車に同乗してリニューアルしたブックオフ御殿場店へ行く。桜庭一樹少女には向かない職業東京創元社2005年初版帯付、池上忠治ゴッホから世紀末 へ』小学館ライブラリー1993年初版、有栖川有栖ほか『金田一耕助に捧ぐ九つの狂想 曲』角川文庫2013年4刷帯付、マイクル・コナリースケアクロウ・下』講談社文庫 2013年初版、計432円。遠い割には面白い本がないので、当分行くことはないだろう。 この前行ったのは五年くらい前。店を出ると小雨。そして大粒の雨。三島市へ入ると 晴天。

 東京の中野書店が古書目録『古本倶楽部 近代文学号』を送ってきた。424頁に 18,085点。明治の雑誌には欲しい本がない、個人全集は安い(でも買わない)。 夏目漱石『我輩ハ猫デアル』明治38年初版三冊揃は、315万円。
 当時新刊で購入した本から値上がりした本を何冊か挙げてみる。
 『討論 三島由紀夫VS.東大全共闘』新潮社1969年初版帯付250円が3990円。
 澁澤龍彦『異端の肖像』桃源社1967年初版函1500円が10,500円。
 澁澤龍彦『偏愛的作家論』青土社1972年初版函帯付980円が10,500円。
 澁澤龍彦『女のエピソード』桃源社1972年初版函帯付950円が8,400円。
 塚本邦雄定型詩ハムレット深夜叢書社1972年初版ビニールカバー帯付 1,000円が6,300円。
 主要な著作よりも傍系のものが値上がり幅が大きい。当たり前か。手持ちの本で 最も値上がり幅の大きいものは、合田佐和子『オブジェ人形』グラフ社1965年初版 函付400円を、四十年余り前、今は無い近所の古本屋で150円で購入。

 ネットの見聞。

《 日本の特徴、芸人が政権を風刺しない。最悪です。 》

《 政府を批判するときは、その政府に投票している人がなるほどと思う方法で なければ、その批判は政府にとって何も怖くない。 》 阿川大樹

《 軍事力を競うんじゃなくて、平和を競えばイイのだ! 》

 ネットの拾いもの。

《 今やツイッターがマスコミなので焼身自殺はマスコミでたくさん報道されています  》

《 都議会のセクハラヤジも、新宿での焼身自殺未遂事件も、最初は海外メディアが 大きく報道し出し、その成り行きで小さく報道していた日本のメディアは「海外でも 大きく報じられています」とそれをニュースに、その場繕いの後追い報道。さすが「2014年 世界報道の自由ランキング59位」の日本だわ。 》

《 いや、NHK、パーフェクトですよ。「何かをわめいていて自殺」「抗議集会は 長崎で200人」「政府はおっしゃいましたけど」・・・世界の笑いものになるべく、 判りやすいネタを次々と・・・・もう、朝鮮中央放送ナチス宣伝省も完全に超えた!  》

《 日本メディア「報道しない自由の行使だもんねwww」 》