「幽霊人命救助隊」

 高野和明『幽霊人命救助隊』文藝春秋2004年初版を読んだ。帯文から。

《 自殺者の命を救え!
  浮かばれない霊たちが、天国行きと引き換えに
  人命救助隊を結成、地上に舞い降りた。     》

 老の八木、壮の市川、青の裕一、男三人と若い女性、美晴の霊が、 自殺しようとする人を見つけて思いとどまらせる。成仏できない幽霊という設定が、 もう成功を約束している。年配から小学生までの、自殺志願だからこその泣き笑い。

 霊の裕一たちによってガス自殺を思いとどまった内村。ふとタバコに火を点けてガス爆発。

《 内村は救急隊によって応急措置を施され、部屋から運び出された。もちろん裕一たちは、 一緒に救急車に乗り込んだ。内村と救急隊員、それに四体の浮遊霊で埋まった車内は、 押すな押すなの混雑となった。 》 126頁

《 一進一退の攻防に裕一はあせり始めたが、美晴が返し技を放った。「言いたい 連中には言わせておけばいいのよ! 日本人は陰口がすきなの! 面と向かって言う 強さがないから、陰でこそこそ罵るのよ! みんなそうやって精神の健康を保って いるの! 大体ね、和の精神をことさらに強調するのは、放っておけば和を乱す 民族だからよ! 人が三人集まれば、そのうち一人が陰口の標的になるの!  言われているのはあなただけじゃないわ! そうでしょ!」 》 172頁

《 一人も救助対象者が見つからなかったある日、救助隊の面々は新宿駅の地下から 地上に出て休息を取った。
 「でかい街頭テレビだな」八木が、ビルの壁面に設置された大型モニターを見上げて 言った。
 「力道山が生きていたら、さぞかし喜んだろうに」 》 177頁

《 八木が感嘆した声を出した。「この親父、女のことに関しては教育熱心だな」 》  244頁

《 『花のワルツ』が聞こえてくる頃合だと裕一は期待したが、流れてきたのは 熟女の熱い吐息を思わせる『ハーレム・ノクターン』だった。 》 255頁

《 「こんなに興奮したのは、力道山ルー・テーズ戦以来だぜ!」 八木が年甲斐もなくフィーバーしていた。 》 255-256頁

《 「気まぐれは女の特権なのよ」
  「意地悪は?」
  「それも」              》 293頁

《 「すごく怖がってます。夜の樹海に一人で取り残されて、自殺者の幽霊が 出るんじゃないかと怯えてます」
  「もう出てる」と八木が不機嫌に言った。 》 395-396頁

 現代の病巣をリアルに描写しながら、それへの具体的な一つの処方箋をも示唆する。 目が離せない。なんとも良質なエンタータインメント、二十一世紀の人情喜劇だ。

 味戸ケイコさんから手紙。

《 「美少女の美術史」の図録が届きました。(中略)面白いです!!  三つの美術館の学芸員さんの人選がきっとユニークなのでしょう。 ともあれ  めったにない光栄なことと喜んでいます。 》
 http://bishojo.info/

 静岡県立美術館への巡回が楽しみ。本棚の前面には味戸さんの絵(『失われた絵本』 1975年の原画)。葉書大。魅入ってしまう。

 ネットの見聞。

《 人命に関わらない代々木公園のデング熱のことは大々的に報道しまくるのに、 人命にかかわる福島県放射能汚染のことは、まるで「腫れ物にさわる」 かのように国と県と市町村とがグルになって嘘をつき続ける自称・美しい国 「ニッポン」、こんな国で本当にオリンピックなんか開催するつもりですか? 》

《 遅ればせながら、「読書人」に掲載された、細谷雄一苅部直両氏の対談を読む。 以下、自分が年寄りの説教をする側に回ったことを不本意と思いつつ、感想を記したい。 両氏の学問的業績については敬意を表しつつ、政治的発言の基本的前提をわきまえていないと 言わなければならない。 》 山口二郎

《 苅部、細谷世代の怜悧な政治学者は、私たちを伝統的左翼護憲派への先祖返りと批判するが、 為政者が伝統的右翼に先祖返りしたことをなぜ問題にしないのか。 》 山口二郎

《 細谷氏や苅部氏の発言については、自民党憲法改正案をスルーしている点もそうだが、 彼らが現実に「中国の脅威」をどう考えているのか、という点を一切語らない点に強い違和感を覚えた。 》  KAJITANI Kai

 ネットの拾いもの。

《 風呂出た。仕事やる気成分が風呂の湯に溶け出てしまった……。 》