紀田順一郎『古本屋探偵の事件簿』創元推理文庫1994年9版を読んだ。四篇を収録。第一篇「殺意の収集」。
《 その人はやはり五十歳だった。まあ、五十過ぎれば愛書家も”あとがない”という意識に共通のものが あるんだな。 》 126頁
私は前期高齢者の頃になってそんな気持ちを抱くようになった。古本屋探偵の店の名は「書肆・蔵書一代」。 コレクションは一代限り。元気なうちに堪能しなくては。「殺意の収集」では限定版が三百部、うち二部が私家版の 稀覯本で、古書マニアが血眼で探している。私にはそんな探求書はない。好きな本は手に持って愛玩、惹かれる絵画は 距離をもって感嘆。いつでも好きな時に鑑賞できるのが、所有する者の特権。同時に劣化、破損を恐れ、細心の注意を 払う。所有にも喜びと苦労が併存。肉筆画は一点ものだから。
第二篇「書鬼」は読んだ記憶。結末部分。
《 地鳴りのような不気味な音を発して何百冊、何千冊もの本が、三人の上に落下してきた。 》 249頁
まさに「書鬼」の住む家。中島敦『文字禍』を連想させる描写。
第三篇は「無用の人」。つげ義春の漫画を連想したが、ミステリ度が高い。しかし「高い」が最初の変換で「他界」。
三篇が中編の長さ。第四篇「夜の蔵書家」は長編。デパートの古書店への雪崩れをうって飛び込む書鬼たちの描写が、 やはり笑いを誘う。
《 「お客さまに申しあげます。良識をもって行動してくださるようお願いします」
「いまごろ良識なんて言っても遅い!」 》
《 数人の者はエレベーター・ガールの背にしがみついて、悲鳴をあげさせている。奥へ入ってしまうと、出るときに 遅くなってしまうので、場馴れしたマニアはエレベーター・ガールのすぐ背後に密着しようとする。(略)
「十階!」
「ノンストップ!」
「止めたら殺すぞ!」 》
いやはや。ここで息切れ。続きは明日に。
朝、源兵衛川、三ツ石神社と下流のヒメツルソバを抜く。一時間ほどで終了。土のう袋一袋。帰宅して 水を浴びる。冷たいコーヒーが旨い。
午後自転車で、黄金の稲穂実る田圃の中の道を走り、ブックオブ函南店へ。これは気持ち良い。上野千鶴子・ 小倉千加子・富岡多恵子『男流文学論』ちくま文庫1997年初版、瀬尾こると『ロマネスク』創元推理文庫2014年初版、 吉田篤弘『パロール・ジュレと魔法の冒険』角川文庫2014年初版、計324円。帰宅して買いもの。温かいコーヒーを 淹れる。旨い。