『〈もの派〉の起源』

 本阿弥清『〈もの派〉の起源』水声社2016年初版を読んだ。序の冒頭一行が効く。

《 「美術」とは、いったいナニモノなのだろうか? 》

 たしかに。続けて著者は書く。

《 川俣正がどれだけ精巧な、建築と見まごう作品を作って美術界で話題になったとしても、建築の分野で取り上げられる ことはめったにない。 》

 俄然読む気にさせる上手いつかみだ。そして本文。

《 その後、「トリックス&ヴィジョン」展に参加した作家のうち、高松次郎と関根伸夫が、多摩美大との関係もあり、 〈もの派〉に組み込まれた一方で、グループ〈幻触〉は、トリック系作家というレッテルを貼られ、今日まで、 〈もの派〉に乗り越えられた敗者として扱われてきた感が強いのである。 》 32頁

 敗者。山口昌男『敗者の精神史』を連想。〈幻触〉が乗り越えられた敗者ではないことを一次資料から反証した労作だ。 わかりやすい語り口に滲む熱い意気込み(憤慨)がひしひしと伝わる。一次資料に拠って検証する作業は、とても大事だ。 去年の末に出た小代有希子『1945 予定された敗戦』人文書院も、一次資料を丹念に読み込むことで、敗戦前後の日本の 別の相貌を明らかにした。

《 飯田正ニら〈幻触〉のメンバーたちが、石子順造との出会いと交流をとおして到達した世界観は、「人間」と「自然」 との関係を、「見る」ことから「在る」ことに求めて、立体というジャンルで、自然物を使って「空間と時間」を 表現することにあった。 》 「〈もの派〉と〈幻触〉の作品 」108頁

 ふむふむ。

《 現代美術の作品は、視覚芸術とともに、視覚を越えた、その奥に秘められた表現の本質を見抜く洞察力なしには、 評価するのは難しい。 》  「〈もの派〉と〈幻触〉の作品 」110頁

 洞察力……自分にもあってほしい。

《 〈幻触〉のメンバーたちが到達した地点とは、人間と自然の対立によって生じた人類共通の危機意識の芽生えのなかで、 西洋思想とは異なる東洋的な自然観をよりどころにして、人間と自然との関係を、芸術をとおして表現することだった。 》  「現代美術の批評精神」114-115頁

 気宇壮大な構想だ。

《 石子(順造)や小池(一誠)らは、丸石との対話をとおして、人間中心でも自然回帰でもない、自然と人間との一体化の 意識のなかから、現代美術の歩むべき未来を読み解こうとしていたのではないだろうか。 》 「石子順造と『丸石』」 121頁

《 石子が到達した卵のような丸石の中にこそ、現代美術の中心命題ともいえる「空間と時間」の表現の重要なヒントが 潜んでいると私は思っている。 》  「石子順造と『丸石』」124頁

 白砂勝敏氏の新作の立体(凸凹)絵画とでも呼ぶしかない『水の記憶』シリーズが浮かぶ。先月28日に書いた一部を再掲。

 それだけではどうってことがなく見過ごされている小石が、板が、鉄が、セメントが、白砂氏の手で拾われ、組み合わされ、 構成され、確かな位置に定まっている。そのひとつひとつがたおやかな存在感をもって交響する。瑞々しいバランス。見事だ。 作品の重量は30キロもあるのに、軽やかな親しみを感じる。
 作品からは気の遠くなるような地球の歴史=時間の積層を感じる。時間に重量はないが、その積層の波動は、心の深部に潜む 静かな水面をゆるやかに揺らす。「水の記憶」だ。すごくいい作品、の予感。それは予感ではなく実感だが、何かの予兆も感じる。 未来に開かれている、ということか。過去未来貫く水のごときもの。
 http://ameblo.jp/steampunk-powerstone-art/entry-12222648583.html

 二十世紀の石子順造らの考えと二十一世紀の白砂勝敏氏の作品との間には、主語的と述語的の違いが横たわっていると思う。

 後半の「付録」は関係者の対話。

《 鈴木 美術の世界は、悲惨ですよ。美術は両面を抱えています。結局、美術は針のむしろのようなものです。そこが勝負です。 エリートが残り、雑魚は落ちる。創造できない人は落ちていく。そういう世界です。それはしかたのない宿命です。 》  「石子順造の思い出/鈴木慶則×李美那」228頁

《 鈴木 一番気に入っていた文字は、「タテ看」の文字だってご存知ですか。学生運動のスローガンなんかが書かれている、 あの立て看板の文字です。石子さんは、あの、怒りに燃えた文字は最高だといっていました。「あのレタリング文字はすばらしい」 と。学生の作ったガリ版刷りのチラシの文字がすばらしい、とも言っていました。 》 「石子順造の思い出/鈴木慶則×李美那」 236頁

 ガリ版刷りのチラシなら幾枚も保管してある。平成生まれには化石のよなものだろう。

 昼前、源兵衛川中流部で茶碗のカケラを拾う。十キロを越えたところで終了。一汗。
 昼過ぎ、友人知人とギャラリー巡り。白砂勝敏さんの個展へ三人で訪れる。やはり興味深い。

 ネットの見聞。

《 公営ギャンブルは40年ほど前の美濃部都政の時に廃止した。それは税金でテラ銭稼ぎのような真似をする倫理感が 問われた。社会のモラルの後退現象だろうか。射幸心を煽り、一獲千金を狙い真面目な努力を否定する。
  私にはカジノに家族連れの娯楽のイメージはない。 》 小松崎拓男
 https://twitter.com/takuokomart/status/804544742885355520

《 デンマーク貧困率が最も低い国です!
  母子家庭など一人親家庭貧困率は世界最低です。 》 駐日デンマーク大使館
 https://twitter.com/DanishEmbTokyo/status/803868746855096320

 ネットの拾いもの。

《 ASKAさんは元気にシャブやってた事は判ったが、CHAGEさんが何しているのかは一向にわからない。 》 総統
 https://twitter.com/soutou_d/status/804529382224109568

《 「なんちゅうか……」と口に出してしまったとき、いまだに頭の中で「……本中華」と追いかけてしまうのは、 おれだけではあるまい。 》 冬樹蛉
 https://twitter.com/ray_fyk/status/804315924035551232