『精神の危機』

 ポール・ヴァレリー『精神の危機』岩波文庫2010年初版、後半も読んで読了。慧眼の士だ。再読しなければ、という気力を奮い立たせる本。

《 かの戦争はまだ記憶に新しく、つねに心にかかっている問題ですが、細部に関しては、すでに忘却されてしまっているところがあります。いくつかの点は 焦点がぼやけてしまっています。かつては争う余地のないように思われた判断に異論が出てきて、世論に私の与り知らぬ様々な憶測や疑義を生んでいます。 》  「フランス学士院におけるペタン元帥の謝辞に対する答辞」 313-314頁

 「かの戦争」とは第一次世界大戦のこと。

《 すべてのことにおいて、あなたはみんなから理解されることを願い、各人があなたの計画の中で担うべき部分を自分の判断力において展開すべきだという考えを持っていました。 》 同 316頁

《 そもそもあなたは他者に対して、自らの判断に基づいたものではない、盲目的で儀礼的な信頼感を要求することを潔しとしない人間です。 》 同 316頁

《 あなたがけして忘れなかったことは、現実は無数のかなり無秩序な特殊事例からつくられていて、その事例がどのようなものから出来ているのかはその都度見極めて、新たに分析しなければならないということです。 》 同 319頁

《 知性の新の価値は諸々の事実に学ぶ器量を持つことにあるということを、一度、悟ってしまえば、あとはその信念にしたがっていけば足りることです。 》 同  319-320頁

《 あなたはすぐに大きな発見をしました。門外漢にはあまりに単純すぎると思われたかもしれません。しかし私たちは、科学や哲学の例で、知っています。 無邪気な目には明らかなことでも、専門家の目には時には見えなくなってしまうことです。専門家の注意力は偏執したり、過敏になったりするからです。 》 同  324頁

《 武装「平和」と呼ばれる「歴史」局面ほど奇妙なものはありません! 》 同 330頁

《 私たちは武装「平和」という重苦しい体制の下で、「次の戦争」という常套句の恫喝の下で、生き、創り、繁栄すら享受しているのです。 》 同 332頁

《 「明日の戦争」は人々が一度は考えたことのある破局のいずれかになるでしょう! 》 同 334頁

《 そうした幻想は、過去の事例にとらわれ、現時点で何が忌避され、何が要求されるべきかを逸早く見極めることよりも、かつての輝かしいモデルに執着することを よしとする人たちの頭にとりついて離れなかったのです。 》 同 345頁

 「東洋と西洋──ある中国人の本に書いた序文」の訳注”「東洋と西洋」は、盛成がフランスで出版した『我が母』1928に寄せた序文。”に始まる ヴァレリーと盛成とのエピソードがひときわ印象的。

《 盛成(当時二十九歳)とヴァレリーの出会いについては、盛成自身が中国語で書いた次のような文章があるので以下に訳出する。 》 463頁

《  「ヴァレリーが君に十六頁もの序文を書いてくれたって!」
  実際ヴァレリーは誠心の人である! 彼は私にそっと言ったものだ。
  「お金がないときには、私のところに来て言いなさい。」 》 471頁

 上記は結び。ヴァレリー、すごい人だ。それにしても、訳注の活字が小さい。私は裸眼で読めるが。

 天皇誕生日
 昼前、源兵衛川最上流部のヒメツルソバを抜く。殆どが若芽だが、十センチ以上ある根も。今のうちに抜かないと後で苦労する。
 午後、ブックオフ長泉店へ。矢崎存美『居酒屋ぶたぶた』光文社文庫2016年初版、D・M・ディヴァイン『悪魔はすぐそこに』創元推理文庫2011年6刷帯付、計216円。
 おやつにアヲハタのブルーベリー・ジャムを瓶から匙ですくって味わう。美味い。ラベルに「きれいな甘さ」。上手い。

 ネット、いろいろ。

《 雷から「反物質」が生成されるメカニズム、ついに解明へ──京都大学の研究チームが発表 》 WIRED
 https://wired.jp/2017/12/23/antimatter-and-thunder/

《 海外で成功しているのに、日本で愛されないアーチストという人がいて、でも後々(=死後)には日本でも高く評価されるかもしれないが、それって 異国や後世という「遠くの人」に好かれただけで、近くの人には愛されない。それって、どうなのだろう、とふと思う。ゴッホとかもそうだったかもしれないが。 》  布施英利
 https://twitter.com/fusehideto/status/943976072185503744

《 無駄な箇所を悉く削れば良くなるのが小説ならば、小説は永遠に詩や短歌に敵わないだろう。無駄こそ小説の神髄なのだ。 》 吉村萬壱
 https://twitter.com/yoshimuramanman/status/944256109048512513

《 自分自身、「自分の専門分野」という但し書きをつけてしまったけれど、自分の問題関心の枠内を超え出て、はるかに広い展望のもとに書物同士をつなげる書評が もっと書かれて良いのではないだろうか。分野的にも時代的にも、同時代状況に縛られた、近視眼的な傾向が強まっているようには思う。 》 TANAKA Jun
 https://twitter.com/tanajun009/status/944404370459734016

《 重複(ちょうふく)、執着(しゅうじゃく)、代替品(だいたいひん)、早急(さっきゅう)、続柄(つづきがら)、固執(こしゅう)、輸入(しゅにゅう)、 捏造(でつぞう)、惨敗(さんぱい)、堪能(かんのう)、漏洩(ろうせつ)、間髪を容れず(かん、はつをいれず)、荒らげる(あららげる)、依存(いそん)、 貼付(ちょうふ)、施策(しさく)、憧憬(しょうけい)、漸く(ようやく)、依存心(いそんしん)、威丈高(いたけだか)、出生率(しゅっしょうりつ)、 年俸(ねんぽう)、相殺(そうさい)、遵守(じゅんしゅ)、御用達(ごようたし)、御利益(ごりやく)、他人事(ひとごと)、凡例(はんれい)、汎用(はんよう)、完遂(かんすい)、発足(ほっそく)等々。  》 「ターミナル」一考
 http://www.despera.com/bbs2/2017/12/post_2318.html