深沢幸雄の盃(閑人亭日録)

 銅版画家・深沢幸雄氏から生前恵まれた盃二客を久しぶりに卓上に置いて鑑賞。一つは径65mm、高さ50mmほどの渋く青い釉薬が厚く掛けられた磁土の盃。もう一つは径70mm、高さ50mmほどの渋い灰釉薬の掛けられた塩笥(しおげ)型の陶土の盃。どちらも小ぶりで掌にすっと載り、まるく収まる。この感触が、北一明の盃とは異なる特徴。北一明の盃は、茶碗の小型版(ミニチュア)といえるもの。掌にすっと収まるものではない。指先で挟んで全体を鑑賞するのが北一明の盃。深沢幸雄の分厚い胎土の持ち重りのする盃は、器全体が柔らかな丸味のある局面を描いている。鋭角な表現に対する柔和な表現。そんな違いを、頂いた昔は気づかなかった。北一明は、切っ先鋭く抜きん出た表現を盃にも求めていた。深沢幸雄は、掌(たなごころ)にすっと馴染む感触を大事にした。それはいかにも日用雑器の印象だが、それもまた味わい深い。鑑賞陶磁器ではなく、実用陶磁器。若い人なら「カワイイ!」と言うだろう。大事に使いたい。