愚者のエンドロール

 昨夜、米澤穂信愚者のエンドロール角川スニーカー文庫2002 年を読んだ。バークリー「毒入りチョコレート事件」「を相手にどこまで本歌取りがなったものか、それは皆様の判断に任せます。」
 見事な本歌取りだぜ。冒頭のチャットは「??」だったが、読後にはその「??」が解明され、出来事の見通しが明快になる。爽快な読後感。巧いわ。アントニイ・バークリーが読んだら微笑するだろう。
「黄色い背表紙文庫を幾つか読んだことがある。その程度だな」107頁
「ははぁ‥‥。とすると、日本人作家だね。割と固いところだ」
 こういう小ネタがミステリ心をくすぐる→創元推理文庫のこと。
 音楽をかけながら読んだ。重くないものがいいので「ABC ISLAND PRIMER」(ABC諸島入門)に。ABC諸島はカリブ海南辺、南米ベネズエラ沖のオランダ領の島、アルバ、ボネール、キュラソー島のこと。
 その音楽は、海上交通の交易島という位置からキューバなどのカリブ海諸島、ポルトガル、南米、アフリカと、全方位的な音楽が濃淡まだらに混在している開放的なもの。じつに面白い。
 音楽といえば、一昨日の毎日新聞夕刊、渡辺裕「考える耳」の題は「西洋基準押しつける著作権意識」。見出しは「失われる日本の『替え歌文化』」。
「歌詞と旋律が一対一で対してひとつの『曲』をなすという考え方自体、西洋的なものであり、」
「原作者の権利ばかりを主張することは、西洋的な『曲』の概念をもってそれとは成り立ちの違う様々な文化を裁こうとする、西洋基準の押しつけという側面をもっているのだ。」
「既成の旋律パターンを使い回してそれにバリエーションを加える形で音楽文化が営まれていたアフリカ諸国の中には、ワールドミュージック・ブームで自分たちの音楽が西洋のミュージシャンに勝手に使われることを防ごうとして著作権法を整備したところ、自分たちも既成の旋律を使えなくなり、音楽活動が衰退してしまった国もあるという。」
 こんな権利が浸透したらABC諸島の音楽なんか立ち行かなくなる。笑えないわ。

 ブックオフ長泉店で二冊。森田誠吾「明治人ものがたり」岩波新書1998年初版、萩原延壽(のぶとし)「馬場辰猪(たつい)」中公文庫1995年初版、計210円。馬場辰猪(1850〜1888)は中江兆民「三酔人経綸問答」の洋学紳士のモデルといわれている。