「変容」

 伊藤整「変容」岩波書店1969年3刷読了。この前に読んだ井上靖「化石」1967年刊は高校生のとき新刊で読んだけど、こちらは老人の文学ということで話題になった記憶があるけど手を出さなかった。当時読んでも理解できず投げ出しただろう。このニ作は好対照だ。「化石」は新聞連載、「変容」は雑誌連載。どちらも小説の時代は連載と同時代(1960年代後半)。

「化石」 三人称 中堅建設会社社長 五十五歳 妻は亡く娘は結婚 一人の女性への恋情
「変容」 一人称 個人営業日本画家 六十近い 妻は亡く子も無い 数人の女性との交情

 「化石」は愛と生と死、「変容」は愛と性と老が主題。よって「化石」は人生論的であり「変容」は人間論的。
 会社経営者と個人画家、生き方の違いがじつに興味深い。
 私は十年前までは十人近い女性を雇う経営者だった。この十年は個人で私設美術館をやっている。「化石」と「変容」を生きてきたようなものだ。未婚だし。子どもはいないし。

「『真相』は分からない。それを無理に追うよりも、曖昧さの薄闇の中に、もの事をおぼろなままで放置せよ。そこにあるおぼろな形が人生なのだ。」「変容」303頁
 大人だ。

 きょうは三島市の大通り商店街まつり。店を営んでいた時は実行委員長などをしていた。十年一昔。記憶は化石になり、街は変容した。

 ブックオフ長泉店で三冊。永井豪キューティーハニー 1・2」扶桑社文庫1995年初版、シモーヌ・ヴェイユ重力と恩寵ちくま学芸文庫1999年5刷、計315円。「キューティーハニー」は、2の解説が姫野カオルコなので。
「『キューティーハニー』の解説をするとは、これで、私の人生も終わりだ。」姫野カオルコ