一冊の書物

 昨夜、きょうになる直前、古川日出男「アラビアの夜の種族」角川書店2001年を読了。帯の「渾身の1980枚!」「現代に甦る千夜一夜物語アラビアンナイト)」は嘘ではなかった。そのとおりだ。といって、千夜一夜を読んだことはないけど。最も印象的な一文「一冊の書物にとって、読者とはつねに唯一の人間を指すのです。」575頁が、エピローグのような最終章の657頁に引用されていた。やはりね。日本推理作家協会賞日本SF大賞受賞。SF大賞はわかるけど、推理作家協会賞とは?ミステリアスきわまりないけれども、ミステリかなあ。ミステリの領域も拡大したものだ。泉鏡花賞を受賞しなかったのが不思議。この賞に最も相応しいと思うのだけれど。この本には六十年近く生きてきて、なお見たことの無い不思議な漢字がこれでもか、と頻出。ルビが振ってあるので読めるけど、ネットで変換できない(と思う)漢字をよくぞまあこれだけ使いこなしたものだ。感心。文体や物語の流れに吉川英治宮本武蔵」を連想した。魑魅魍魎の跋扈する地下世界と欲望渦巻く地上世界。そして一千年の歳月。その結構と迫真の描写に、野間宏「青年の環」の力技を連想した。

≪聴き手をうしなっては、ことばなど、存在しないも同然です。≫103頁

≪発展し破綻しつづける物語であって、これもまた夢の本質なのです。≫139頁

 書評サイトなまもの!の日記から。

≪〈仕事の〆切〉とかけて〈女性の生理〉と解く。
 その心は。
 なくなると一大事だが、来たら来たで鬱陶しい。≫