「あるユモリストの話」

 嵐の前の曇天。ブックオフ長泉店で二冊。大崎梢『背表紙は歌う』東京創元社2010年2刷帯付、つかこうへい『銀ちゃんが、ゆく』角川書店1987年初版、計210円。つうか公平。公平……毎日新聞20日の読書欄、J=P・フィトゥシ、E・ローラン『繁栄の呪縛を超えて』新泉社への中村達也の書評から。

《 やみくもにパイの拡大を求める経済成長=「繁栄の呪縛」を超えて、むしろ、パイの分け方=分配のありように真正面から目を向けるべきことを著者たちは強調する。 》
《 問題は、分配のありようを決める政治的プロセスをどう構築するかという、民主主義そのものの質に関わる。「経済を衰退させるのではなく、不公平を衰退させる」ことを目指す、と著者たちは言う。 》

 昨日の『悪戯の愉しみ』福武文庫、訳者解説。
《 このなかで氏は「あるユーモリストの話」とい一つの章の全体をアレー(氏の表記はアレ)の生涯、および作品にあてておられるので、一読をおすすめする。 》
 と紹介されている河盛好蔵(よしぞう)『エスプリとユーモア』岩波新書1969年初版(栞紐付きだ)を本棚から抜く。最終章「あるユモリストの話」だ。四十年あまり前に読んだきりだから、面白かったという記憶はあるが、内容はすっかり忘れている。読んでみた。面白い。就学前のアレの逸話。

《 ある日、妹のマチルドと一緒に女中に連れられて、海岸の近くの「愛の泉」と呼ばれる小さな洞窟のそばで遊んでいたとき、あまりいうことをきかないのに女中が手を焼いているのを見た通りがかりの品の良い老人が、「なんの因果でこんなに女中のいうことをきかない子供が生まれたんだろう」というと、アルフィはすかさず、「なんの因果でこんな自分に関係のないことに口を出す老いぼれが生まれたんだろう」とやり返した。 》

《 彼は子供が嫌いで、子福者の友人に宛てた手紙に、「お子さんたちにうわの空の愛撫を」と書き加えた。 》

 紹介されているコントからその一部。ジャンの恋人マドレーヌは浮気な女ですぐだます。

《 四番目にマドレーヌがジャンをだましたとき、ジャンはきいた。
  ──どうしてあんな男と一緒になって僕をだましたんだ?
  ──だって、……というわけなのよ。とマドレーヌは答えた。
  彼女の可愛い眼にはみだらな影がさした。ジャンはよくわかって、「よし!」とつぶやいた。
      …………………………………………………
  まことに残念ながら、これは春本ではないので、読者諸君はお好きかもしれないが、ジャンがどういう風にやったかをお話しするわけにはゆかない。 》
 結末。
《 ──だって、あのひとは人殺しをやったんだもの、とマドレーヌは答えた。
  ──よし! とジャンはつぶやいた。
  そしてジャンはマドレーヌを殺した。
  マドレーヌがジャンをだます習慣をやめたのと、ほとんどそれは同時だった。 》

《 死後久しく忘れられていたが、一九四○年にアンドレ・ブルトンが『黒いユーモア選集』を刊行したとき、そのなかにアレを取り上げたことから、また人びとの注目するところとなり、現在では静かなブームを呼んでいる。 》

 没後三十五年にして復活。洋画家安藤信哉は没後三十年。

 奈良の古本屋智林堂がヤフオクに出品した篠山紀信のサイン本の画像をブログに載せている。

《 大判の本にこれまた目いっぱいの文字での堂々たる筆跡。この写真家はとにかくスケールのデカイのが好きなようだ。 》

 画像を見ると、1997年に小学館から出た石田えり二冊組の写真集のサインとほぼ同じ。画家の『会田誠作品集』1999年4刷では「会田」がこれまたデカイ。ブックオフではこれ以外にもサイン本を拾うことがある。やなせたかしの万年筆、ミステリ作家の夏樹静子のサインペン、純文学の辻原登の毛筆などなど。エリザベス・グージ『まぼろしの白馬』福武文庫1990年初版には、訳者石井桃子の万年筆サイン「一九九一年 クリスマス 石井桃子」。まだ目にしたことはないが、死後出た本の著者サイン本もあるとか。

 ネットの見聞。

《 向井周太郎先生は、デザインを「かたち」の「ち(霊魂)」に注目されてお話された。古典芸能の伝承も同じ。外面的に伝承されるのは「かた」ですが、言外に伝承されるのは「ち」。以心伝心の伝承。世阿弥はそれを「ものまね」と名づけた。外面のマネではなく真髄、象徴のマネ。それを伝承するのが稽古。 》 安田登

《 吉本隆明的な「大衆」と現代の「ヤンキー」はどう違うのかを論じました。大衆は日日の労働実践を足場に、党派政治や知識人の空語を批判しました。それに対して、ヤンキーの足場は労働ではなく、消費です。だから「最低の代価で最高の商品を手に入れる」技術だけが洗練されてきた。というような話です。 》 内田樹

 ネットの拾いもの。

《 生まれてからずっと藤原でやってきたが、「藤原の効果」なんて初めて聞いた。 》 藤原編集室