午後から風雨が強まり、戸締まりを確認する。台風来襲のよう。ざわざわする音の中で 半村良『魔境殺神事件』祥伝社文庫1999年初版を読んだ。題から『産霊山秘録』のような 時代伝奇小説を予想していたら、成田空港開港(1978年)間近の話だった。事件の場所は 辺境も辺境、アフガニスタン、パキスタン、インド、ソ連そして中国が入り込むような、 部族が入り交ざっている、中央権力の及ばない不安定地域。この天候に相応しいわ。
《 「被害者は宙に浮いたままだというのです」
「宙に……」
「あたりはかなりの広さの野原で、被害者の遺体は地上八○メートルから一○○メートルの 高さの空間に浮かんでしまっているのです。だから、下へおろせんのです。近くには木も建物も、 何もないらしいのです」
「まさか……」 》 93頁
《 「この紛争は……いや、殺神事件(ケース・オブ・ディヴィニサイド)と言うべきかな。」 》 98頁
ここでやっと語り手の役目が明らかに。
《 「宙に浮いた神の死体のトリックを見破り、いかにそれが幼稚な、とるに足りないものであったかを 明らかにせんとな。」 》 98頁
《 俺は一目見て、これはエスパーの仕わざか超常現象の一つに違いないと覚悟をきめた。 》 123頁
《 魔境殺神事件。俺はその解決に駆り出された探偵なのであった。 》 150頁
《 しかも俺のESPはどのジャンルにもかたよっていない。遠隔感応力から念動力、透視力、 予知力など、すべてにわたる力を備えているのだ。 》 165頁
《 「偶然のことから、みなさんはこの世界に人体浮揚術が実在するということを目撃したわけです。 僕自身も自力による浮揚を体験してしまいました」 》 258頁
《 「エスパーは常に防禦の姿勢をとりますからね。癖になっているのでしょう。」 》 309頁
『岬一郎の抵抗』を連想させるくだりだ。『産霊山秘録』『石の血脈』と同様、古から連綿と続く 超能力の系譜という設定。そしてソ連のアフガン侵攻の新聞記事で終わる。藤原伊織『残り火』同様、 政治社会情勢をうまく取り込んでいる。ぐいぐい読ませるが、読者を選ぶ小説だ。
ネットの見聞。
《 きのうの「よんとも」で発表された「西崎憲が選ぶ怪奇小説ベスト10+4」 》 藤原編集室
https://twitter.com/fujiwara_ed
14「白い粉薬のはなし」アーサー・マッケン
連作形式の長篇『怪奇クラブ(三人の詐欺師)』(創元推理文庫)の一挿話。
13『ゴールデン・フライヤーズ奇談』J・S・レ・ファニュ
三つの挿話からなる長篇の第二話「憑かれた准男爵」の翻訳(福武文庫。残り2篇は未訳)。
12「月光に刻まれて」ジェイムズ・スティーヴンズ
『小人たちの黄金』のファンタジー作家の未訳作。
11「いも虫」E・F・ベンスン
『怪奇小説傑作集1』(創元推理文庫)収録。
10「輝く草地」アンナ・カヴァン
『短篇小説日和』(ちくま文庫)に西崎憲訳で収録。
9「喉切り農場」J・D・ベリズフォード
『怪奇小説日和』(ちくま文庫)に西崎訳で収録。
8「ダンウィッチの怪」H・P・ラヴクラフト
『怪奇小説傑作集3』(創元推理文庫)
7「アムンゼンの天幕」ジョン・マーティン・リーイ
『怪奇と幻想2』(角川文庫)、『幻想と怪奇 ポオ蒐集家』(ハヤカワ文庫NV)
6「炎天」W・F・ハーヴィー
『怪奇小説傑作集1』(創元推理文庫)収録。
5「ゴースト・ハント」H・R・ウェイクフィールド
『ゴースト・ハント』(創元推理文庫)
4「柳」A・ブラックウッド
『幻想と怪奇1』(ハヤカワ・ミステリ)収録。
3「笛吹かば現れん」M・R・ジェイムズ
2「信号手」チャールズ・ディケンズ
1「猿の手」W・W・ジェイコブズ
《 「猿の手」「信号手」という名作中の名作を1位2位にもってくる、 衒いのなさに西崎さんの人柄がしのばれる、と豊崎さんも大絶賛。 》
6位の「炎天」は四十年あまり前、水木しげるが翻案した短篇漫画を描いている。
《 一昨日の「160年後の書籍代」ツイートが10000回以上RTされて戸惑っている。 そこまで面白いだろうか。一方、渾身の力を込めて放つ自信作が3RTだったりすることが多いので、 Twitterは怖い。 》 中野善夫
https://twitter.com/tolle_et_lege
ネットの拾いもの。
《 日本みたいに、ギリシアの神々の中にも貧乏神って、いるのだろうか? 》
《 新国立競技場、開閉式青天井。 》