『述語的世界と制度』「第五章 自己・言語・生命」三

 中村雄二郎『述語的世界と制度』岩波書店1998年初版「第五章 自己・言語・生命」を読んだ。市川浩のことばが紹介 されている。

《 同様に、近代劇が平板になった一因は、しだいに他者を切り捨ててきたからである。近代劇は、神という他者を切り捨て、 コロスという他者を切り捨て、観客という他者を切り捨て(近代劇は形式上観客はいないという建前で演じられる)、 モノローグの禁止によって、私のなかの他者を切り捨て、せりふとしてのせりふを中心とすることによって肉体という他者を 切り捨てた 》 299頁

 近代現代美術も同様ではないかな。どこで読んだかは忘れたが、葛飾北斎は近代の人、安藤広重は前近代の人という評があった。 私は前近代の広重の絵により惹かれる。昨日の渡辺省亭、小原古邨らに、日本美術院横山大観たちよりも惹かれる。西洋美術の 衝撃を深刻に受け止め、日本画の革新を標榜した日本美術院。西洋の技法をさり気なく採り入れ、さらりと受け流した渡辺省亭、 小原古邨という構図が浮かぶ。渡辺省亭、小原古邨の木版画のなんとモダンで豊かなデザイン性だろう。主語的な日本美術院に 対して述語的な渡辺省亭、小原古邨。

《 さて次に、右にリクールによっていろいろな角度から照明の当てられた〈物語〉を〈生命〉とのかかわりで考えることにしたい。 だが、なぜこのようなテーマが私のうちに現われたのか、というと、こうである。現代において、自然破壊が人間の内面的自然にまで 及び、そこで失われた生命的なものの回復がつよく求められてきている。そうしたなかで、生命的なものは、なによりもよく〈物語〉 のうちで回復されるからである。したがって、ここでは、なぜ物語が生命的なものを体現するか、ということが解明すべき中心的な 問題になる。 》 309-310頁

 絵画における物語的と物語性の違いを以前から思っていた。物語的と私がいうのは、絵解きの(ような)絵である。中村雄二郎が 論及しているのは、私が重要と考えている物語性につながるもの。物語性、第一には味戸ケイコさんの絵。

《 これらの三つの論点は、大まかにいえば、それぞれ、1〈想像力と共通感覚〉、2〈パトス〉〈受動・受苦)の働き、そして 3〈かたちとリズム〉の問題にかかわっている。 》 310頁

《 〈演劇的知〉と大きく重なる〈パトスの知〉とは、受動、受苦、痛み、病など、言わば人間の弱さにかかわるものを指し、 したがって人間の強さを前提とする近代科学の知が蔑視してきたものである。パトスの知は、環境や世界がわれわれに示すものを いわば読み取り、意味づける方向で、シンボリズム(象徴体系)とコスモロジーに即して成り立っている。 》 315頁

 味戸ケイコさんの絵への適切な解説のようだ。
 http://web.thn.jp/kbi/ajie.htm

 ネットの見聞。

《 『この世界の片隅に興行収入が10億円突破 上映も200館超える 》 THE HUFFINGTON POST
 http://www.huffingtonpost.jp/2017/01/07/kono-sekaino-katasumi_n_14016820.html?ncid=tweetlnkjphpmg00000001

 三島近辺ではまだ上映されない。鶴首して待つ。

《 古書ドリスに懐かしい本が。
  http://www.kosyo-doris.com/SHOP/odris407.html
  出版社(1人の)が最低でいろいろ酷い体験したので、ずっと後に私の知らない改訂版(一回り大きいハードカバーの)が 書店に並んでるのを見たけど、二度と関わりたくないので黙っていた。まー、初回印税は回収したから。 》 林由紀子
 https://twitter.com/PsycheYukiko/status/817878354829320192

 『セピア色の少女たち』『セピア色の恋人たち』『セピア色の人形たち』シティ出版。昔、林さんから恵まれて本棚に。

《 一緒に見たのになぜ否定…? 沖縄防衛局の「手のひら返し」に住民怒り心頭 》 沖縄タイムス+
 http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/78643

 ネットの拾いもの。

《 うえからは明治などと云うけれど 治明(おさまるめい)と下からは読む(南和男『維新前夜の江戸庶民』より) 》 鯨統一郎
 https://twitter.com/kujira1016/status/817866362383011841

《 「笑点建築」って変換されたけどいったい 》 Hajime Ishikawa
 https://twitter.com/hajimebs/status/816904081813872640

《 「神の造形」 》
 http://shupure-isp.shueisha.co.jp/classics/so-net/1604baba/