『明治の文化』五

 色川大吉『明治の文化』岩波書店1970年初版を読了。

《 近代天皇制はなによりも政治機構としてとらえられる。その完成されたシステムは、一八八九年の大日本帝国憲法に表現されている。天皇制はこのシステムを つかい、「政治」を通し、「経済」を通し、「教育」を通して日本の人民を支配してきた。そしてそれは、欧米の圧迫から日本を近代国家として独立せしめた 富強の力とナショナリズムの源泉でもあった。 》 「 VIII 精神構造としての天皇制」 264頁

《 明治の国家意識を考える場合には、こうした記紀万葉から尊攘思想の時期までのおびただしい著作、詩歌、芸能、法令制度、伝承などに具象化されてきた 反省的意識の体積に注意しなければならない。 》 「 VIII 精神構造としての天皇制」 268頁

《 廃藩置県、学制制定、徴兵令、地租改定と、明治初年の大改革が進行するにつれ、絶対主義と近代的機能主義とを包摂していった天皇制は、その内部において 自由民権運動の抵抗を排しながらも、一路理念的な感性をめざして幻想領域を拡大していった。 》 「 VIII 精神構造としての天皇制」 269頁

《 そして、最後までこの包摂に逆らい、「天皇制打倒」の禁句を発したもの(共産主義者)だけは、見せしめのために「異端」として徹底的に弾圧しつくすという 陰惨さを示したのである。 》 「 VIII 精神構造としての天皇制」 270頁

《 民衆の側からいえば、かなりの深みまで「国体」の擬制を受けいれながら、最後の一点で天皇制に魂を渡さなかった。いちばんの深部で、天皇制は日本人の心を とらえ切れていない、「国体」は真の意味で、民衆の精神的機軸にはならなかった、そう私は考える。 》 「 VIII 精神構造としての天皇制」 293頁

《 時期を明治以降にかぎってみても、日本の部落共同体には、明治維新から自由民権期にかけてのなにかしら新しいものを生みだそうとした共同体の形成期= 変革期と、天皇制や寄生地主制の支配の確立した停滞期と、それが敗戦をはさんでふたたび激変にさらされた一九四○年代以降の解体期=変貌期と、すくなくとも 三つの時期のものに大別できる。これを見ても、日本の共同体は天皇制の全一的に領有されたものとするのはあたらない。 》 「 VIII 精神構造としての天皇制」  294頁

《 私は、とくに明治の日本国家の躍進を考えるに当って、「上から」の合理化・近代化の動きに呼応する「下から」の民衆の近代化意欲を重視し、さらにこれを 国家発展のダイナモに連結した中間層の歴史的形成とその役割に注目した。つまり、「指導のエネルギー」と「基底のエネルギー」、それをダイナミックに連結した 篤農、老農、有志者の「媒介のエネルギー」は、近代日本の発展のメカニズムをいう場合、その近代化性向からしても捨象してはならない要素だと私は考えた。 》  「 VIII 精神構造としての天皇制」 299-300頁

《 日露戦争はまた、もうひとつの重大な変化を大衆心理のなかに残した。それは朝鮮・満州の戦場に出ていった幾百万という日本人が、そこで直接に中国民衆に 接し、かれらへのはっきりとした侮蔑意識をもって帰ってきたということである。 》 「 VIII 精神構造としての天皇制」 321頁

《 (幸徳)秋水らが身をもって示したことは、天皇制は慈愛に満ちた無限抱擁の体系ではなく、異端の排除には手段をえらばぬ暴虐をなすものであり、その和気藹々 のかげに、人の心を凍らせるような酷薄さをかくしている矛盾体という真実であった。 》 「 VIII 精神構造としての天皇制」 334頁

 なんともスリリングな論述だ。興奮。幼少期(一九五○年代)の見聞、体験のもやもやとした疑問の靄が開けてきた。

 秋晴れ。洗濯物を干すハンガーを新調。サクサクこんなに気持ちよく干せるとは。
 源兵衛川最上流部のヒメツルソバを抜く。花が咲いているので見つけやすい。土のう袋半分ほど。一汗。帰宅して下着を着替える。さすがに水は浴びない。
 午後、友だちが誕生日を祝ってくれた。ありがたい。

 子どもの頃からカタカナ語では知っているけど、意味は知らない言葉にトライアンフがある。triumph 。勝利、大成功、偉業といった意味を午後知った。それも 某ツイートの、triumphant(勝利を収めた、勝ち誇った) の”言ってるはしからnとmを打ち間違え。。”から。でも、元ツイートは trionphant。
 しかし、66年生きてきてトライアンフを実感したことはないなあ。有頂天の次には転落が待っている。危ねえ危ねえ。

 ネット、いろいろ。

《  16.宮田昇『昭和の翻訳出版事件簿』(創元社)を読了した。

  今回の著書は戦前の翻訳史への誤解をはらす一冊で、翻訳権のことなど、ある程度は無視して日本で出版されていたとばかり思っていたが、 それなりの配慮があったことを教えられた。また戦後に関しても、具体的な例を挙げての真相究明で、まさに拳々服膺すべき「翻訳出版事件簿」といえよう。

  『出版社大全』(論創社)の塩澤実信、『文壇うたかた物語』(筑摩書房)などの「文壇三部作」の大村彦次郎、『逝きし世の面影』(平凡社)の渡辺京二の3人に、 宮田を加え、私は勝手に「四翁」と称んでいる。この4人は高齢社会にあって範とすべき翁たちであり、その中でも宮田は今回の著書を90歳で上梓している。 さらなるご健筆を祈ります。 》 出版状況クロニクル114(2017年10月1日〜10月31日)
 http://odamitsuo.hatenablog.com/entry/2017/11/01/000000

 90歳。あと23年……永いわ。

《 ガブリエルの「新しい実在論」は、構築主義批判かつ自然主義批判。山をAとBが見ているとする。構築主義は、Aが見ている山、Bが見ている山という 主観的構築だけを認める。自然主義は、物理的な山自体だけを認める。ガブリエルは、Aが見ている山、Bが見ている山、山自体がどれもリアルだとする。 》  千葉雅也
 https://twitter.com/masayachiba/status/925392607617921025

《 また評者は体験を主とする語りと災害のデータ記述が批評性を弱めているというのだが、それは異物を混入し旧来の美術批評の定型的な説得力を解体するための 方法。他に人新世や思弁的実在論を日本美術へ敷衍する視点を持つとあるが「敷衍」などしていない。私なら旧約聖書、理科年表、万葉集を読み込む。 》 椹木 野衣
 https://twitter.com/noieu/status/925508582971400192

《 Q. ニュートリノだのヒッグス粒子だの研究して、なんの役に立つのですか?
  A. 電波が発見された時も、あなたと同じ質問する人が佃煮にするくらいたくさんいました。 》  高木壮太
 https://twitter.com/TakagiSota/status/925504714812268544

《 大学の友達が卒業後に就職もせずにパチプロやってるんだけど、大勝ちして奨学金全額返したら偉い人に呼ばれて、[こんな早く奨学金返済できる人はいない! 君は偉い!奨学金を借りて大学へ行って良かったな!]的な感じで大絶賛されて町と学校で表彰されたらしい。 》 SLACKER!!銀ちゃん
 https://twitter.com/slacker13gin/status/924854671411253248