『かたちは思考する』お休み(閑人亭日録)

 「第1章 多重周期構造─セザンヌクラスター・ストローク」で分析されていた『群葉の習作』(1900-1904年)を『セザンヌ婦人画報社1996年で見る。

《 そこでは細い青と赤のタッチによって縁取られた黄と緑のタッチが、反復する色彩のパターンを構成している。色彩は、事物の固有色から半ば独立している。だがその 反復的な色彩の秩序が、現実世界の葉が示す奥行きの秩序を翻訳する。(中略)セザンヌの水彩画の多くにおいて、色彩の変調にはこの 種の高度に自律的かつ反復的な構造がある。この一貫した色彩変調の「論理」によってセザンヌは、世界から閉鎖されながら、それを「実現」する絵画を作り出す。  》 41-42頁

 このニューヨーク近代美術館蔵の絵は、画集で見てぐっと惹かれた。そうか。油彩画になるとその技法はさらに進化し、昨日の『サント・ヴィクトワール山とシャトー・ ノワール』になる。この絵はすごいとは感じるが、やたら疲れる。その理由が昨日の引用で腑に落ちる。

 平倉圭『かたちは思考する』を読んでいてなんか既視感が。岡崎乾二郎『抽象の力  近代芸術の解析』亜紀書房2018年だ。そしてジョージ・クプラー『時のかたち   事物の歴史をめぐって』鹿島出版会2018年。この本の帯と扉に岡崎乾二郎の推薦文。

《  芸術史のコペルニクス的転回。
  事物に従って生み出される、事物による事物の歴史。
  人のつくったすべての事物を芸術として扱うことで、出現する単線的でも連続的でもなく、
  持続する様々な時のかたち。
  先史以前/以後の区分を廃棄。革命的書物、宿願の初邦訳。 》

 『時のかたち  事物の歴史をめぐって』『抽象の力  近代芸術の解析』『かたちは思考する  芸術制作の分析』。三冊が呼応、応答すると感じる。

 朝、新幹線で東京、上野の東京都美術館の「コートールド美術館展」へ。

《 美術や美術史を勉強したことのないコートールドは、1920年代から印象派作品の収集を始めた。当時のイギリスでは、印象派やポスト印象派の作品が 高く評価されておらず、美術館にも収集されていなかった。 》 美術手帖
  https://bijutsutecho.com/magazine/news/report/20518

 20年前に観てじつに印象深かった。また見られるとは。セザンヌは言うに及ばず、今回はエドゥアール・マネを再発見。目玉の『フォリー=ベルジェールのバー』1882年 の細部、画面左下のシャンパンの金の包み、右下の果物を載せたガラスの器、薔薇を生けたガラスの器のなんというリアリティ。それも一刷毛でさっと描いたような。 水の透明な深さを見事に表現した『アルジャントュイユのセーヌ河畔』1874年など。脱帽。満足。
 次に東京国立近代美術館へ「鏑木清方 幻の《築地明石町》特別公開」を観る。『築地明石町』一点で満足。その足で常設展示へ。山下菊二『あけぼの村物語』1953年、 河原温『浴室』シリーズ1953年そして藤田嗣治の未見の壮絶な戦闘場面の戦争画1943年に出合い、大満足。疲れてここで退出。午後五時半過ぎ帰宅。行ってよかった。

 ネット、うろうろ。

《 松毛川河畔林・用地買収の評価と批判 》 グラウンドワーク三島
  http://www.gwmishima.jp/modules/tubuyaki/index.php?lid=110&cid=1

《 質問タイムで際立ったのは、森監督の回答だ。質問者に対して「あなたはどう思いましたか?」「(質問者の回答を受け)それが正解です」と切り返す。 「映画は見た瞬間に、皆さんのものです。それぞれが色んなことを思い、色んなことを考えればいい。僕も皆さんの意見を受けて発見することもある。 だからこそ、シーンの意味は口が裂けても言いたくない。どんどん質問していただいていいですよ。かわしますから」と答えていた。/ 森達也監督、 東京新聞記者・望月衣塑子氏を「泣かせたかった」 勝負の行方は「完敗」 》 映画.COM
  https://eiga.com/news/20191104/16/

《  日本の美術市場は閉鎖的な国内市場だけで構成され、芸術院会員になり文化勲章を取ると作品の値段が一気に高くなる。 これを支えているのは東京美術倶楽部の画商たちで、メンバーの画商たちが交換会で値付けを行う。デパートも その一翼を担う。
  作品価格は号(葉書1枚)単位で付けられる日本独特の方式だ 》 三潴末雄
  https://twitter.com/mizumaart/status/1191743980725096448

《  しかしながらこうした交換会方式はオークションハウスが日本に登場した90年代辺りから値崩れが始まった。
  その主たる原因は90年のバブル経済の崩壊だった。
  不動産が半値八掛け五割引きに急落。日本画や洋画のお値段も更に5割引きになり、高騰時からたった1割の値段まで下がった。でも制度は根強く残る 》 三潴末雄
  https://twitter.com/mizumaart/status/1191745751216357377

《 景気良いって誰も言わなくなったな 》