『日本美術史の近代とその外部』再読・二(閑人亭日録)

 稲賀繁美『日本美術史の近代とその外部』放送大学教育振興会2018年初版の再読を終える。どこか記憶に留まっているのだろう。再会の気分もある。なんと野心的、 挑戦的な著作だろう。誰かに勧めたくなる。残念だが、そんな人はいない。

《 この記念碑的な大著の影で『水墨画』(1969)には、日本敗戦後に書かれた「滲じみの感覚」が収録されている。中国では「出来損ない」「下手物」と忌避された類の 陶器を、なぜか日本の茶人は好んだ。思わぬ「滲み」が景色を作る《蓑虫》と銘を得た雨漏り茶碗などもその典型だが、そうした偶然や不完全を尊ぶ趣味や美意識に矢代は 注目する。 》 「第10章 矢代幸雄における美術の東西:造形の現場と学術」 147-148頁

《 それは大陸の影響からの乖離であるとともに、文人趣味と工藝との交差でもあり、西洋の価値範疇に照らすならば、高級藝術と低級藝術の融合でああるとも評価できる。 晩年にむけて、矢代はいくつかの国際美術出版において、こうした彼の日本美術観を披歴してゆくこととなる。岡倉〔天心〕が提唱した「朦朧体」は、矢代において 「暈(ぼか)し」や「滲にじ)み」を通じて「湿潤の気の横溢」を寿ぐ位相へと転移を遂げた。
  形をなさない汚点や滲みへと突き抜けた矢代晩年の美意識は、同時代の抽象表現主義をはじめとする新たな価値観との対話を、洋の東西を跨ぐ課題として指示している ようだ。 》 「第10章 矢代幸雄における美術の東西:造形の現場と学術」 148頁

《 「略史」とあるように、この段階ではまだ試作品であり、続く1910年のロンドン日英博覧会を目睹(もくと)に内務省が編纂した『国宝帖』3帙を持って「日本美術史の 筋書き」が大凡(おおよそ)組み立てられたもの、と矢代は評価する。 》 「第12章 野口米次郎からイサム・ノグチへ」 166頁

 『国宝帖』の英文解説は岡倉天心が書いた。この日英博覧会に田島志一の審美書院は、『東洋美術大観』を出品。名誉大賞を受賞した。『国宝帖』も審美書院の発行。 どちらも未見。見較べてみたい。
 https://ci.nii.ac.jp/ncid/BN13874078
 https://www.bijutsushi.jp/c-zenkokutaikai/pdf-files/2015_05_22_04_hayashi.pdf

《 最新の考古学的な発見は、新発見の最古の文物を現代に甦らせる。それが従来の常識を打破し、認識を刷新し、将来への展望を拓く。とすれば美術史とは何だろうか。 それはけっして、作品を年代順に整理羅列した文化財目録の作成や、その解説にとどまるものではあるまい。
  むしろ現在を認識の蝶番として、過去の事績がそこに集結し、それが未来を育む。 》 「第12章 野口米次郎からイサム・ノグチへ」 168頁

《 しかし1980年代になってもなお西欧社会では、職人藝と藝術家との間、デザインと美術との間には、跨ぎ越せない距離があった。 》 「第12章 野口米次郎から イサム・ノグチへ」 170頁

《 女性原理と見なされた「布」の復権による秩序の転倒。それは言葉の元来の意味での「革命」revolution と呼んで差し支えあるまい。投棄された廃材が美術作品としての 栄光に包まれる逆転もまた、ひとつの革命である。 》 第14章 エル・アナツイと世界の織物」 203頁

《 文化を超えた現象が相互に照映する。日本近代が経験した西欧文明と東洋的価値観との交錯も、そのような相互作用に伴う自己変容の姿として捉えられる。それはまた 個人という人格を超えて人びとを横に繋ぎ、相互に働きかける。そうしたネットを編み上げてゆく造形の実相を動態的に理解する縁(よすが)として、華厳モデルを提唱 したい。 》 「第15章 華厳パラダイムと現代美術:まとめにかえて」 210頁

《 普遍的合理性を標榜する理論も、けっして普遍的な適用妥当性などもたない。 》 「第15章 華厳パラダイムと現代美術:まとめにかえて」 211頁

《 互いに遠く近くに響き合い、時代を越えて対話を交わす造形の世界を、その生理に寄り添って追体験し、それを土台にわれわれの認識を刷新することはできまいか。 》  「第15章 華厳パラダイムと現代美術:まとめにかえて」 212-213頁

《 単線的に一つの原因から一つの結果を導く閉鎖系の連鎖から因果律を解放し、複合した因縁の錯綜のなかで事象が互いに感応しあって展開される、相互依存の 生きた網の目として世界を描く試みである。 》 「第15章 華厳パラダイムと現代美術:まとめにかえて」 215頁

 またまた真夏が戻ってきた。
 午前10時 30.9℃
 午前11時 31.7℃
 午後0時 32.8℃
 午後1時 33.0℃
 午後2時 32.3℃
 午後2時23分 34.0℃
 午後3時 32.8℃
 午後4時 32.8℃
 午後5時 31.2℃
 午後6時 29.8℃

 ネット、うろうろ。

《 清少納言も令和に生きてりゃ「夏は無理」で飛ばしたと思う 》 ちゃんみつ
https://twitter.com/chanm/status/1301462078725660674

《 学会の質疑応答で、「その指摘はまったく当たらない」、「仮定の話にはお答えできない」ってやって、会場を睥睨してみたらどうなるかな。 きっと冷笑とともにシラけた空気が会場に漂うだろうな。 》 森岡正博
https://twitter.com/Sukuitohananika/status/1301747898074296328

《 菅義偉という政治家が、どのような政治思想を持っているのかについてはよく分からないところがある。ただ、記者会見での彼の極めて不誠実な受け答えを観ていれば、 彼が目的のためには言葉を蔑ろにしても構わないと考えている権威主義者であることはわかるのである。 》 平川克美
https://twitter.com/hirakawamaru/status/1301386090058670081

《 一応言っておくと、菅官房長官の息子さんが大成建設に勤務し、辺野古工事を受注していた。いわゆる利権ということ。
  しかも辺野古建設は沖縄側は合意してない。沖縄振興策の那覇空港拡張を基地負担軽減の成果として強調。どこまで自分本位なのか。 》 凡人エリック
https://twitter.com/No_Zey_2020/status/1301133688017530880

《 81歳と79歳(今月80歳)と71歳と65歳(今月66歳)が密室で談合して65歳の悪事を再調査しないことを条件に71歳を首相にすると決めて、30歳〜50歳台の議員が従い、 こんな自民党総裁選を自民党員党友はもちろん国民は黙って認めるのか。これで選ばれた71歳のやる事を支持できるのか。絶望的な気分になる。 》 俵 才記
https://twitter.com/nogutiya/status/1301490053315588096

《 境内を歩いていてちょうど顔をあげた瞬間だったから驚いて心臓止まるかと思ったぞ。 》 ねむらー
https://twitter.com/nemuraaaa/status/1301422721067180032