作品との距離(閑人亭日録)

 北一明の茶碗や盃を鑑賞するとき、卓上に置き、手の届くほどの距離で眺め、それから手にとり、掌上で回して鑑賞。見込み(内側)を鑑賞。ひっくり返して高台を鑑賞。まあ、あちこちから眺めて愉しむ。北一明は午前十時の光が鑑賞に向いていると言っていた。夏の午前十時では暑くて鑑賞に向かない。最近の午前十時がふさわしいと思う。卓上に置く、畳に置く、手にとって目線の高さで鑑賞する等、いろいろな鑑賞法があるが、美術館のガラス越しに見るのでは、その作品の魅力を実感、体感することは無理。手元にあらばこそ、その重さも魅力も存分に味わえる。
 http://web.thn.jp/kbi/ksina.htm

 絵画は平面なので、鑑賞する距離はそれぞれ異なる。味戸ケイコさんの葉書大の絵は、一メートルほど離れて見たり、額を手にして細部を見たり。
 http://web.thn.jp/kbi/ajie.htm

 白砂勝敏さんの木彫の椅子は現在、居間の窓際に置いてある。くつろぐ。掌で木彫の滑らかな湾曲をなぞって愉しむ。なごむ。
 https://shirasuna-k.com/gallery-2/wood-sculptures-chair/
 北一明、味戸ケイコ、白砂勝敏の作品は、実用品にして美術品。美術品にして実用品。これからは分野を越え、跨(またが)る作品が増えてくる予感。その先例として、内野まゆみさんが制作している、彩色した木片(縦横25mmx厚さ15mm)の表(おもて)面に、私が源兵衛川で回収してきた茶碗のカケラを彼女が洗浄液に漬けてきれいにした破片を接着し、裏面に磁石を接着したメモ留めがある。メモ留めは、手に乗せて見て、その独特の魅力が伝わる、実用品にして美術品。上記三人同様、一点モノ。ただ違う点は、それは売りものではないこと。古(いにしえ)の陶工たちの技(わざ)を高く評価し、それにあらためて光を当てるために、気にいった陶片と板の彩色を彼女ならではの粋なセンスで合わせている。それを贈られた人たちは、ほんと大いによろこぶ。近所の女性は内野さんに特注して、濃紺に着色した細長い板にそれを縦に並べ、掛け軸のように壁に掛けている。ステキ、見栄えがいいと喜んでいる。いろいろな発想があるものだ。その作品は、裏面は磁石ではなくピン留め。よって、入れ替えるができる。鑑賞者が作品の構成に手を加えることができる。彼女の新作は、三嶋大社宝物館ギャラリーの展覧会「三島ゆかりの作家展」(11月29日~12月3日)でお披露目される。

 昼過ぎ、内野さんと沼津市駅南、仲見世商店街を下って左へ折れ、一階がハンコ屋のビルの地下の珈琲舎フレィバァへ。女主人の淹れるブレンドコーヒーは、彼女も私も好み。自家製ケーキも私も彼女も好み。先週はザッハ・トルテ。これには驚嘆。二個買って自宅でも賞味。きょうはババロア。これもいい。特にパイ生地がいい。二個買って帰宅。煙草を喫える小さな静かな(地下だからかな)大人の隠れ家。
 https://loco.yahoo.co.jp/place/g-OBHItHW4k0-/