『木霊』つづき(閑人亭日録)

 昨日取りあげた『木霊』からもう一篇。

《  XXXI 岩井橋
  川瀬巴水は、夕闇迫る古い木造の橋の上に、二人の農夫を描いた。
  夕暮れの色を映す緩やかな川の流れと、その向かうに見える遠い山脈(やまなみ)と、これ
  から二人が帰っていくであらう小さな集落の高い杉木立まで描き込まれる。
  夕映えた雲を背景に、影絵となつた農夫たちの、一日の仕事の後の充実した疲
  労感と、たわいない会話の内容まで伝はつてくるやうだ。
  灯りのともつた家では、年老いた親やまだ幼い子どもたちが、その帰りを待つ
  てゐるのかもしれない。
  農夫が去つた後の橋にの上は、急に夕闇が濃くなつた。
    農夫去りて能州(のす)佐久山の岩井橋 帰るあてなどなき影法師  》

 影法師は気になる言葉。夏目漱石の俳句「名月や故郷遠き影法師」ほか、種村季弘『影法師の誘惑』など多くの影法師が浮かぶ。

 昼前、源兵衛川中流、三石神社入口横の茶碗のカケラ、ガラス片などを拾う。重くなって終了。帰宅。一汗。ふう。