三人の先達 (閑人亭日録)

 二十歳早々、文筆家の三人の先達に出会った。俳句の加藤郁乎(いくや)、小説の中井英夫そしてドイツ文学者の種村季弘(すえひろ)の三人だ。三羽烏というか。その作品に注目した。縁があって親しくなった。

《 四つで思い出したが、先日、静岡県三島市の一青年から『荒れるや』には『四運動の理論』などが出没しているのに、「念書」にフーリエの名前がはいっていないのはどういうわけかという問い合わせがあった。 》
 現代詩文庫45『加藤郁乎詩集』思潮社 一九七一年十月二十日 発行 収録「自分よ、お前は…」117頁下段

 加藤郁乎氏に連れられて行った新宿東口のスナック『薔薇土(ばらーど)』で飲んでいると、そこへ中井英夫氏が来訪。ほう、この方がアンチ・ミステリの大作『虚無への供物』の作者かあ、と挨拶をした。それから呑兵衛のお二人、加藤氏と中井氏が絡みあい、加藤氏がぷいっと出て行ってしまった。中井氏について『ナジャ』ほか何軒か見て回ったが、いないので『薔薇土』へ戻った。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8A%A0%E8%97%A4%E9%83%81%E4%B9%8E

《 五月二十日 金 ハレ(引用者・略)あと三島のK君。これはいつもタイミングよく、おれがシケ込んでいるとき慰めてくれる青年なれど、いきなりテワして来訪。庭でもと思うもハエ多く閉口。 》 中井英夫『月蝕領崩壊』立風書房1985年4月27日 第1刷発行 153頁 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E4%BA%95%E8%8B%B1%E5%A4%AB

《 竹倉の富士山 三島の修善寺広小路駅前に、三島名物のうなぎ屋「桜家」がある。その真前に、これも三島名物団子屋「銀月」がある。その銀月のほうに朝七時の開店そうそう、きまってお団子とお赤飯を買いにくるおばあさんがいる。(引用者・略)銀月の若主人、越沼正さんはかねてそう考えていた。 》 種村季弘『晴浴雨浴日記』河出書房新社1989年3月28日─初版発行 77-78頁 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A8%AE%E6%9D%91%E5%AD%A3%E5%BC%98
 出会いから半世紀余。三人ともとうに鬼籍に入られてしまった。