晴天のもとの地下通路

 この前、友だちの車に同乗していて見かけた歩行者用地下通路の写真を撮りに朝、開館前にその国道1号線の場所へ自転車で行く。国道がゆるやかに高架になるところの地下通路は、晴れた冬空のもと、ほっかり開いた異界への入り口のような、どことなく怪しい、不気味な気配を感じさせる。朝ではなく夜だったら、下りては行かないだろうなあ。意を決して入ると、どうってことないガランとした通路。でも、ここで向こうからくる人影を見たら、ドキッとする、絶対に。視界を定めて写真撮影。入り口、中、出口と撮り終えると、周囲の美術館の近くだけれども辿ったことのない裏道をくるくる走る。アパートの需要見込は、ある意味辺鄙なこんな空間までをも侵食している。ゆるやかな曲線を描いて上ってゆく国道と接するようにびっしりと繁茂した竹林が、ずっと下を流れる河川を隠している。ここが異界への入り口かもしれない。秘密基地を作りたくなる。秘密基地といえば、今読んでいる堀江敏幸「河岸忘日抄」新潮文庫の繋留された船は、そもそも秘密基地のようなものだろう。

≪そういう文脈に身を置いてみれば、河岸に繋留された動かない旅人を演じる準隠遁生活は、「潜伏」というまことに物騒な相貌を帯びてくる。≫259頁

 吾妻ひでおの「失踪日記」か。

 堀江敏幸「河岸忘日抄」新潮文庫読了。この歳にならないと、多分途中で投げ出していただろう。静かなささやかな日常が細やかに描写され、そこから浮かぶさまざまな想念。そんな想念と読者との無言の会話がこの小説の読みどころだろう。引用した箇所は後半部にもいくつもあるが、省く。

 ネットの拾いもの。

≪母親が彼女の写真を見て言った一言。「可愛い子ね」

 喜ぶ俺。

 「でも男見る目は持ってないね」……どやかましぃ。≫