「悶々ホルモン」

 次に何を読もうか迷った。昨日買った佐藤和歌子『悶々ホルモン』新潮文庫2011年初版を手にする。これを買った理由は、『間取りの手帖』リトル・モア2003年の著者だったから。加筆、再編集されてちくま文庫に入っているけど元本のほうが好き。

《 女が一人で焼き肉屋に行く時、それは、男に失望した時。同時に、女としての自分に失望した時なのです。 》 12頁

 へえ〜、知らなかった。焼き肉屋、去年行ったかなあ。一人外食にはほとんど縁が無い。

《 喩えるなら、暗闇でコンドームの裏表がわからない、そんな感じでしょうか。 》 27頁

 そういえば、先だってご近所のスーパーの台所用品売場にコンドームを見つけた。これは意外。じっと見た。やだ、この本、面白過ぎるわ。

《 まだまだ自分が満足したい、処女以上熟女未満の私です。 》 30頁

《 「もうすぐだから。知らない世界へ連れてってやるから」 》 35頁

《 その後税務署の指導により、何度か値上げをしているようだが、安いことに変わりない。 》 37頁

 引用してたら終らないわ。この調子で三百頁あるんだから。それにしても、「悶々」なんていうと、山上たつひこの傑作漫画『喜劇新思想大系』の登場人物、悶々時次郎を連想するなあ。上下巻の下巻で中島らもが書いている。その冒頭。

《 ギャグというのはつまるところ「差別」である。 》

 ホルモンはそんなモノだ。

《 日本では、内臓は低所得者層が食べるもの、正肉よりも劣った肉だと思われてきたのです。 》 18頁

 そういえば、ホルモンと認識して食べたことはなかった。なにせ、大人数で卓を囲ってワイワイ焼いて、それが何の肉だなんて考えたことはなかったわ。ひたすら食べた。それも一年以上前のような。悶々からの連想でもないが、コーヒーを淹れるためにお湯を沸かしながらその暇に引き戸を引き、本を眺める。台所の棚は、大部分が本棚に利用されている。小林信彦『地獄の読書録』集英社文庫1984年初版を抜く。「新しい文学『エロ事師たち』」が眼に留まる。

《 この小説は、スブやんという猥写真、エロ映画、実演などエロ事一手販売の中年男を主人公とした悪漢小説です。
  悪漢小説というのは悪漢が出てくる小説ということではありません。文芸評論家と称する人すらその辺のケジメを知らないようなので、ちょっと書いておくと、これは”一人の人物の活躍・行動を追うことによって社会の裏面を描く小説”のことです。ただ、その主人公が悪漢の場合が多いので、悪漢小説と呼ばれるのです。主人公が世間知らずの娘の場合だってあるのです。 》

 知りませんでした。

《 日本式の”純文学”でもなく、大衆小説でもない、これは新しい文学です。英訳してヘンリー・ミラーに読ませたら……と筆者は思いました。 》

 そのとおりだ。手元には1968年に講談社から出た単行本。当時読んでえらく感心した。『地獄の読書録』から「字獄」という言葉が浮かぶ。その先は中島敦『文字禍』か。

 ブックオフ沼津南店へ自転車で行く。山口雅也『 Play プレイ』朝日新聞社2004年初版帯付、磯崎憲一郎『肝心の子供/眼と太陽』河出文庫2011年初版サイン入り、計、ニ割引で168円。牛山精肉店へ寄り新年のご挨拶。チーズを購入。コーヒーをいただく。

 ネットのうなずき。

《 大切なことと枝葉末端のことを分けて判断する力が必要だ。 》 武田邦彦

 ネットの見聞。

《 10年くらい前までは正月の初詣には首の周りに白いふわふわを巻いた晴れ着女子がそこかしこにいた。が、今では絶滅危惧種である。いま晴れ着女子をたくさん見ようと思ったら、ヤンキーが暴れそうな地方の成人式か、女子大や専門学校の卒業式に行くしかない。 》

 たしかに三島大社へ参拝する人の列に晴れ着は見られない。

《 最後に、なぜカッコイイ趣味をもった男がモテるのかをH氏に伺ってみた。「女性は、独自の価値観を持った男性に選ばれた。という点に喜びを感じているのでしょう。独自の価値観を持った人がわざわざ自分を選んでくれることが、女性自身の存在価値となるのでしょうね。綺麗に着飾っていても、自分に自信のない女性ばかりですから」と話す。結局は、存在価値を感じられるほど自分を愛してくれる男を、女性は選ぶのだ。趣味は「独自の価値観」の強さを表すバロメーターといったところだろうか。 》

 カッコイイ趣味とはアナログ一眼カメラで風景など人物以外を撮る、ワイン、音楽(バンド)そしてDJとか。ちょっとずれるなあ。いや、大幅か。