「探偵大杉栄の正月」

 典厩五郎『探偵大杉栄の正月』早川書房2003年初版を読んだ。出獄して金欠病の大杉栄のところに旧知の官憲が来訪。失踪した成金の奥さんの探索を依頼される。とりあえず引き受けた人探しと帝都で勃発する軍隊がらみの放火との意外な接点が浮かび上がる。謎解きのほうは驚くほどではないが、明治44年(1911年)の政治と世相がよく調べられ、上は首相から下は売春窟まで、石川啄木竹久夢二をはじめ歴史に名を残す人物たちが続々登場する一大絵巻。百余年前と2014年とがかぶさって見える歴史ミステリであり、かつ幕末〜明治末の政治権力の実態を一際興味深く読んだ。

《 日露戦争に勝ったのは日本で、負けたのはロシアではなかった。勝ったのは支配階級であり、負けたのは庶民であった。 》 152頁

《 だが日露戦争中、国家予算の十倍近くもの赤字国債を乱発していた政府には、みずから解決できる財力がなかった。 》 154頁

《 大島の長男である大島浩中尉は、約一カ月まえ、静岡県三島市の重砲ニ連隊から、東京の陸軍士官学校生徒として転出していた。 》 202頁

 おお、三島が出てくる。

《 中世の暗黒持代にも似たさきの見えない二十一世紀のいまのいま、光明があるとすれば「すべての国家権力は腐敗する」とした大杉栄無政府主義にこそ活路があるのではないか。大杉は百年早く生まれすぎたのである。 》 446頁

 ブックオフ長泉店へ自転車で行くが、何もなし。三島徳倉店へ廻る。船橋洋一『日本孤立』岩波書店2007年初版帯付、正津勉『詩人の愛  百年の恋、五○人の詩』河出書房新社2002年初版帯付、佐藤和歌子『悶々ホルモン』新潮文庫2011年初版、ニ割引、計252円。

 ネットの見聞。

《 今年は元号で数えると昭和89年となり昭和天皇崩御した西暦1989年と重なる。この年にベルリンの壁が崩れ世界体制が激変した。日本が現状に至った根本的な要因はなまじ既得権益があったためこの変化に対応し損ねたことにある。やがてバブルが崩壊、世紀を跨ぐ頃から歪んだ変革を余儀無くされる。 》 椹木 野衣

《 おのれにとって「自明」であり「自然」と思えることを、そのまま「現実」と思い込まないこと。自分の「常識」を他の時代、他の社会、他の人間の経験に無批判的に適用しないこと。それが系譜学者にとって、第一に必要とされる知的資質です。 》 内田樹

《 私たちの自己中心性と愚鈍さの核にあるのは、判断基準のでたらめさではありません。むしろ、判断基準のかたくなさです。 》 内田樹
 http://blog.tatsuru.com/2013/12/31_1454.php

 ネットの拾いもの。

《 石川さゆり「上野発の夜行列車降りたときから青森駅は…」

  鉄A「青森に行く夜行列車は廃止」
  鉄B「上野東京ライン開業で上野発が減るぞ」
  鉄C「新幹線開業で青森は単なる通過点に過ぎない」  》