松本勝貴氏の第一歌集『冬華』書肆季節社1982年を再読。
ひがんばな野に咲けば野をめぐりゆき胸冷ゆるまで満たすくれなゐ
夕暮れの水にわが影残しきてひそと羞（やさ）しき闇に入りゆく
ひと戀ふることの寂しさ曼珠沙華あかあかと秋の闇に焔（も）えたつ
しろきちぶさその寂しさをたとふればさはさはとそよぐあきくさの花
夭逝のきみのくらさよ薄明の窓のかなたを吹雪くさくら樹
くちづけの記憶はかなくふかぶかと貌（かほ）うづめゆくひるがほの闇
みづうみは風に昏れゆき冴冴と樹樹はしづかに眸（め）をひらきゆく
ゆめをいま寂（しづ）かにいでてしろき馬とほく水無月のみづ渉りゆく
口紅（べに）ひきてうつつに顕てる雪女郎血は雪よりもさびしきものを
きょうの私好みの歌。引用歌「ひがんばな〜」は、私的愛唱歌。こうしてみると、味戸ケイコさんの絵に通じる歌ばかりだなあ、とあらためて思う。
折込栞の吉原幸子、西村与和、金川宏そして週刊「読書人」（だと思う）の松平修文・評の選出歌とは、たった一首が重なるのみ。私を入れ五人が選出した短歌で、 二人が選んだ二首を記す。
ゆめをいま寂（しづ）かにいでてしろき馬とほく水無月のみづ渉りゆく
狂れゆきし母のいのちに雨ふりてしづかなりしも昼顔の午後
選出歌がこれほど重ならない短歌集も珍しいのではないかな。松平修文の『冬華』評から。
《 その日、時鳥の啼く夜を徹して、それを何度となく読みかえした私は、暁方、名状し難い喜びに浸ったのだった。やはり、思ったとおりの才質だと、私は思った。 （中略）松本の作品には様々な技術の利用が見られるが、一口に言うと現実と非現実の一体化という方法である。読む者を不安がらせる危機感にみちた美しさは そういう方法の完璧な利用によって生み出されている。（中略）松本の作品のリアリティは殆ど夢の中の現実感であり、その作品の病的な美しさは、現代人の心の底に 巣食う病魔を連想させる。（中略）生の果敢なさ、無意味さをこれ程見事に表現した作品は現在の短歌作品に関するかぎり他に例を見ないのではないか、と思われる。 （中略）怖しい歌だと私は思った。 》
それにしても、水色の布装、水色の栞紐。白い函。なんと上品な本だろう。
松本勝貴（しょうき）氏には他に詩集がある。『夢の構図』土曜美術社1990年、『音楽』花神社1992年、『神の眼差し』近代文芸社2002年。『神の眼差し』は、 新作と前詩集二冊からの抄録から成る。
ブックオフ函南店へ自転車で行く。秋山駿『私小説という人生』新潮社2006年初版帯付、道尾秀介『カササギたちの四季』光文社2011年初版帯付、二階堂黎人・編 『不可能犯罪コレクション』原書房2009年初版、計324円。
ネット、いろいろ。
《 逆説的にしか言説化できないけれど、歴史は〈その歴史から忘れられた人々／敗者たち〉に身を重ねることでしか見えてはこない。史料とは、 そこに記録・記述されなかった事象を読むためにある。表現されたものと、表現されなかったものとは、つねに一対なのだから。 》 中島 智
https://twitter.com/nakashima001/status/1006556830602948611
《 若者ことばの「やばみ」や「うれしみ」の「み」はどこから来ているものですか 》 ことば研究館
https://kotobaken.jp/qa/yokuaru/qa-34/
《 記号の遊戯は、どんなに精緻で巧妙でも、もうぼくの心を揺さぶらない。情念に強く裏打ちされた言葉にしか興味がなくなったのだろう。情念とは何か。 passionと訳すならば「外から受け取ったもの」ということになる。でもここにはある屈曲があって、内に深くダイブしなければこの「外」には触れ得ない。 》 内藤 寛
https://twitter.com/hironium10/status/1005624598870704128
《 記号体系のサーキットをいくら高速で飛ばしても、レース場の外には出られない。記号の網の目から逃れ、外に出るには、内にダイブし、 クラインの壺のような、不思議な道程を経て、言葉の生まれる場所に降り立たなければならない。情念とはそのpasswayだ。 》 内藤 寛
https://twitter.com/hironium10/status/1005628285844217859
《 トランプが今回の米朝首脳会談で一言、金正恩に「日本の拉致問題」を言及した仲介手数料は５兆円で、請求書がホワイハウスから外交特別便で官邸に来週届く （笑） 》 Masa Okumura
https://twitter.com/mokumura/status/1006521218294480896
