『沈黙の日本美』三(閑人亭日録)

 吉村貞司『吉村貞司著作集 弐 沈黙の日本美』泰流社1980年初版、「茶──美とこころ」を読んだ。力作だ。心敬、紹鴎、一休、珠光、そして千利休。彼らの茶の思想が 輪郭鮮やかに描き出される。門外漢の私が感想など到底できない戦国時代を背景にした武士の世界。さもありなん。結び。

《 日本だけに茶がある。というのは、そうした永続の可能性をはらんだ芸術運動であったことをあげねばならない。そして茶として、形が定まる以前に、心敬などによる 美の深化の系譜があったこともあわせてあげよう。茶とは精神であり、そのために魂の傷つけるものを癒すいとなみともなる。茶に私は尊厳を感ずる。 》 198頁

 「能──人間性の根源のドラマ」を読んだ。これまた力作。しかし、能、観たことがない。

《 西洋の演劇が時間や空間を制限することによって、パースペクティヴを完成したのに対して、日本の、少なくとも能は全く異質の時間、空間によって成立している。 》  203頁

《 運命としての、個人的特性としての時間を濃厚に煮つめたとき、能の時間がある。能の時間の特質は、普遍的時間を全く否定しつくしているところにある。 》 209頁

《 それは目が外にむかわず、内面にむかっているからである。目だけではなく、精神そのものが内なる深部にむかっている。私たちが見ている能は、精神化されたきわみの 人間像であって、現実とは異次元のものである。 》 227頁

 昨日書いた”味戸ケイコさんの小さな絵、北一明の茶碗〔ここはデスマスク〕を思う。それからの遠い反響を感じる(のは、私だけかな)。”をここにも感じる。 お二人の作品に身近に接して、既存の批評にどこかしら違和感を感じている。その違和感を越えた批評がまだできない。接近はできても、正鵠を射ることがまだできない。 だから面白いのだが。

 「俳句──凝縮の宇宙的な韻律」を読んだ。峻烈な語り口。

《 俳句が短詩型であるのは、日本の美意識を蔽っている凝縮志向の極点を示しているのであった。決して俳句だけにあらわれたものではない。また絵画や彫刻などの 造型芸術、和歌・俳句のポエジイにのみ見られるものでもない。 》 240頁

《 したがって凝縮性はわが美の精神構造における根本的な原理といわねばならない。部分的なあらわれをのみ見た、例えば茶に対する禅のように、局所だけの解釈はあるが、 その全体におよぶものは、まだない。それは日本のための美の原理、美の思想が未熟なためである。わが精神構造はいまだに秩序だった思惟を得ることがなかった。
  私は俳句の凝縮性もこうした普遍性で見なければならないと考えている。しかし、まだ総合的に見るにはあまりに準備がととのっていない。 》 241頁

《 すてることは対象にアプローチすることであるし、その本質に一致することである。松に習って松になってしまう。その松は、松の生命であり、松が生きている宇宙感覚 を知ることによって、梢に通う風を、枝をおそう雨や霧を、土深くのばしていく根にひそむ生命の意欲を感ずるのである。松に習えというのを、恋する女にならえと おきかえてもいい。そうしたら芭蕉の言っている意味の深さ、むしろおそろしさがわかり出すだろう。 》 244頁

《 芭蕉の〈思惟〉は風雅に徹するにあったし、それは象徴であり、哲学であった。そうとは言え〈抽象〉にはならなかった。芭蕉にも〈無〉があり、否定があったとしても、 〈抽象〉とはことなっていた。〈抽象〉は全体の中に占める一部分だけを思惟の対象にすることだから、具象性をうしなう。それは現実からはなれて、異質のものになって しまうことである。近代芸術における抽象は人間性の全くうしなわれた次元であり、現実的な、そして具象的な要素がまったくなくなったとき、抽象は完成された純粋になる。 従って、ニュー・アブストラクトやシステマティック・ペインティング、オプ・アートなどがそれにあたっている。 》 250頁

 全面的に同意できるわけではないが、いろいろ考えさせる。例えば現実とは?
 ここで単行本の『沈黙の日本美』は終わり。続く「美のこころ」十篇を読んで読了。「美のこころ」の章の「琴」で琴奏者野坂恵子が取りあげられていた。 彼女の演奏をLPレコード『野坂恵子・三木稔 二十絃箏の世界 CONCERTO REQUIEM III 』カメラータ・トウキョウ1982年で久しぶりに聴く。去年の夏に死去されたことを ネットで知る。

 自宅前の旧国道一号線、旧東海道は混んでいる。県外ナンバーの車が目立つ。交通取り締まりの警官、張り切っている。まあな。

 ネット、うろうろ。

《 美しいヴィーナスの光沢ある肌に、見事な和彫の桜吹雪。この不思議な彫刻を作っているのはイタリアのアーティストFabio Vialeさんです。 大理石に刻まれた入墨は表層ペイントではなく、吹付け加工によって石に染み込ませたもの。きめ細かい肌に入墨は映えるものですが、大理石の肌とは着眼点がいいで 》  昔の風俗をつぶやくよ
https://twitter.com/LfXAMDg4PE50i9e/status/1307167977192566785

《 ツイッターによって社会の分断が進んだというのは、誤解で、実際は既に分断されていた人々の間に対話の回路が開かれたことで、隠されていた分断が顕在化しただけの 話なのだね。だって、リアルな世界では、誰も電車の中やショッピングモールですれ違う人たちといちいち対話なんかしないからね。 》 小田嶋隆
https://twitter.com/tako_ashi/status/1307176418615259136

《 首相や大臣が靖国神社を参拝すると、メディアは思考停止して「中韓の反発が」と続けるが、日本人が考えないといけない問題は「自国の軍人を100万人以上餓死させた 戦争指導者を『英霊』として顕彰する人命軽視の政治施設を、政治家が恭しく詣でる行為が何を意味するか」だろう。人命軽視の象徴的施設。 》 山崎 雅弘
https://twitter.com/mas__yamazaki/status/1307189181920153601

《 命と暮らしを守るのが、これからの野党のめざす政治。

  自民党がやっているのは、大企業の経済を守る為に奴隷を安く使う政治。当然、人は殺されて行く。 》 エリック C
https://twitter.com/x__ok/status/1307290405528977408

《 どこにもいないと思ったらこんなところで寝てた。 》 みかんとじろうさんち
https://twitter.com/jirosan77/status/1307246998702096384

《 宇宙まで飛んでったかと思っただろ! 》 oga
https://twitter.com/oga_gicho/status/1307127573252628480