『常世論』七(閑人亭日録)

 谷川健一常世論 日本人の魂のゆくえ』平凡社選書1983年初版、「淡路の海人族」つづき。

《 しかも河内や大和において、はじめは西方にあたる淡路への濃厚な意識があり、ついで東方にあたる伊勢への意識がめばえたことは注目してよい事実である。つまり 日本本土では淡路を聖地とする観念があり、それにおくれて伊勢を聖地とする観念が生まれたのである。それはあたかも沖縄で国王の出身地の方向である北および西が 聖地とみなされていたのが、国王の勢力の伸長した東方に切りかわったのと同様である。
  それと同時に聖地であった淡路は一転してある種の冷淡さと憎悪感をこめて眺められるようになった。 》 201-202頁

《 神聖なものが一転してうとまれ、憎しみの対象となるのは、神につかえる巫女が巫娼と見られ、神聖な動物である蛇や狼や狐などが人に憑く邪悪で狡猾な動物と怖れられ、 ある種の技術をもつ職業がかえって卑しめられるというのとおなじである。〔中略〕ここに海(あま)から天(あま)への思想の転換が見られる。
  このことと常世思想の変貌は無縁ではない。すなわち、伊勢や常陸など東海に面する地方は常世に向かう国土と見なされた。幽かな祖霊の地としての常世のイメージの かわりに、まばゆいばかりに輝く東方海上の理想郷としての常世が出現する。それはふしぎにも沖縄においてもわが本土においても同様であった。 》 203頁

《 だがそれが東方聖地にふりかえられたときに、「常世」は祖霊の地としてのつながりを断った。そうして、帝王の権力の背光として役立つ昇る陽(あがるいの太陽(てだ) )を象徴する海彼の楽土と見なされるようになったのである。 》203頁

 「常陸──東方の聖地」を読んだ。

《 西の果ての九州の肥の国の一族である多氏が東国移住の際に祀った鹿島神は常陸だけでなく、鹿島の苗裔神三十八社は東北地方にも進出する。それらの神は多氏一族と ともに、北上するのである。 》 218

《 常世のことを論じるのに、かくも多氏のことにこだわるのはなぜか。多氏が海人族の信仰や風習をつたえたのみならず、常世の国の伝承に精通したいたことは、 『日本書記』の中の次の記事からもはっきりとうかがわれる。 》 218

《 この物語で注意すべきは、常世が福をもたらす場所と考えられていて、死者の行くべき原郷とは考えられていないことである。祖霊のとどまる他界ということが一般に 信じられているならば、泰河勝は大生部の多をなぐりつけることはしなかっただろう。 》 219-220頁

《 南や西から東へ漂着し、あるいは移動してきた海の民によって運ばれた常世観がまずあった、と私は見るのである。 》 221頁

《 しかし、これまで述べたように、富士川のほとりの、大生部の多の常世も、また『常陸国風土記』に見られる常世観も、いわば物質的な幸福をもたらすところという 観念が支配的である。しかも、そこには『常陸国風土記』に出てくる夜刀の神を退散させる人間や、常世神の信奉者をうちこらす泰河勝のごときものが登場する。
  つまり、現世と常世とが相似形であり、かつ等価値であるとする平等な二元論は失われていて、神にたいする人間の力が誇示されている。しかも、その人間は、 古代王権の支配下につながっているものである。つまり、古代天皇制は二元的世界から脱皮して、自分の手中に力と権威とを集中しはじめたのであった。国家の版図への 意識はかえって強化され、その四境の果ては常世だとする観念が生まれた。それが東は常陸であり、西は小値価(おじか)の島の近くの「みみらくの島」で、そこに行けば 亡き人に会えるという信仰が長くつづいた。
  かつては常世はすぐ近くに想定される祖霊の島であった。それがあとでは国家の四境に拡大された。古代天皇制は現世一元論をつらぬき、その頂上に自己の権力を 置こうとしたが、現世と他界の形式的二元論を廃するまでにはいたらなかった。それまでの長い歴史の中で海辺の民が常世の観念とともに生きてきた事実を否定するわけには ゆかなかったからである。 》 221-222頁

 ネット、うろうろ。

《 声出して笑ったわ! 》 ◯塩からあげ◯
https://twitter.com/himekawakotone7/status/1317727324863746049

《 中曽根大勲位の葬儀は、自衛隊の儀仗兵が隊列を組んで菅さんを迎えるという物々しさだった。田中龍作氏は儀場に潜り込もうと画策するも摘み出され、 しかし結果撮れたのがこの1枚である。大手マスコミに真似はできまい。フリージャーナリストの魂のこもった写真を見よ。これが令和の日本の現実なのだ。 》  立川談四楼
https://twitter.com/Dgoutokuji/status/1318035717323304960

《 まあ、この話の何がすごいって、菅義偉の人間の小ささだよね。

  顕微鏡でもカビと区別がつかない。

  菅首相の著書、改訂版が発売 公文書管理の記述消える:朝日新聞デジタル 》 中野晃一 Koichi Nakano
https://twitter.com/knakano1970/status/1318321576954130433

《 近年の学術研究は本よりも論文を読むほうがメインになるのだけど、やっぱり哲学系は本でないと表現できない世界というのがあり、 それはけっして捨てられないよね。本に対する私のイメージはここ10年でずいぶん変わった。本はやっぱり作品なんだよね。 》 森岡正博
https://twitter.com/Sukuitohananika/status/1318100821498736641

《 ついでに、本好きのかかえる最終問題は本の置き場所をどうするか問題。マンションだともう無理だし、もう一つ部屋借りる?とか、そのために稼ぐとかいう羽目になる。  》 森岡正博
https://twitter.com/Sukuitohananika/status/1318100822547337216

《 「乱歩のお蔵」みたいな書庫が欲しいなー(さりげないようで、魂の叫び)。 》 赤城毅/大木毅
https://twitter.com/akagitsuyoshi/status/1317708176230215682