『唯識・華厳・空海・西田』再読九(閑人亭日録)

 竹村牧男『唯識・華厳・空海・西田』青土社2021年4月30日第1刷発行、「第五章 空海の哲学(一) 十住心による仏教の全景」を再読。

《 このように密教の側から言えば、顕教は方便の浅い教えであり、密教は真実の深い教えであるという。しかも仏の覚りの世界に関し、顕教では説けないとするが、密教ではそこを説くともいう。『華厳経』は、「因分可説、果分不可説」と言って、修業の道筋については説けるが、仏の覚りの世界は説けないという。 》 175頁

《 以下、空海の思想を見ていくが、空海の主著は『秘密曼陀羅十住心論』であり、その要点を説いたのが『秘蔵宝鑰』なのであった。 》 176頁
 『秘蔵宝鑰』(ひぞうほうやく)
  https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A7%98%E8%94%B5%E5%AE%9D%E9%91%B0

《 空海は、顕教の中では華厳の思想を最も高度な思想だと判定している。しかし、華厳を越えて、さらにより勝れたものとして、密教があるのだというのである。 》 179頁

《 顕教という薬は、確かに煩悩の塵を除くであろう。薬というものは病に応じて処方され与えられるものである。顕教とはそのように、真理を真理のままに説かないで、相手に応じてオブラートに包んで渡す方便の教えだという意味が、顕薬の「薬」にはあるわけである。
  しかし真言密教は即身成仏を実現させて、蔵を開くのだという。その人その人の心の中に秘蔵されている素晴らしい性質・徳性をこの世の内に発揮させることが可能になるのだというのである。そうすると、ありとあらゆる功徳(万徳)を証することになる。そこで、密教はもっとも勝れている教えだというわけである。 》 193頁

《 仏教というものは、その核心を言えば、自己とは何かの究明の道だと言ってよい。 》 196頁

《 以上、本章では、『弁顕二教論』および『秘蔵宝鑰』を中心に、空海の哲学の全貌を概観した。空海は仏教思想全体への吟味・検討を経て、密教の世界を描くのである。空海密教については、ただ密教だけを学修しても、その特質や真価は了解できないに違いない。特に中国で発達した天台や華厳等、顕教のすべてを理解してこそ、密教の本質も正しく了解できるはずである。空海の仏教はその全体を包摂したものなのであった。 》 200頁

 「第五章 空海の哲学(一) 十住心による仏教の全景」読了。傍らには竹村牧男『新・空海論』青土社2023年6月30日第1刷発行。その隣には清水高志空海論/仏教論』以文社2023年4月20日初版第1刷発行。待っておれ。