『死霊 九章《虚体》論──大宇宙の夢』二(閑人亭日録)

 昨日は恢復途上の体調がおかしく、読書は進まず、引用文は誤字だらけだった(寝る前に気づいた)。一進一退の体調・・・困ったことだ。・・・さて読むか。摩訶不思議な対話が繰り広げられる。

《 ──ふーむ、そして、これまた迷妄の生物史のはじめのはじめに停まっている単細胞のそちらが絶えず傍らにつきそいながら──そのものいわぬ「もの」の通訳をしているとでもいうのかな……?
  ──左様で……。微塵の岩どうしの接合も、大きな岩の小さな岩に対する物質貪食も、このこちらが生殖細胞と貪食細胞とならざるを得ぬ遠い遠いのっぴきならぬ鋳型をつくっていて、あとから生殖と貪食を拒否するこちらは、漠として黙ったまま考えている《存在から無限存在へ移りゆくことの最初の重力拒否者》のすぐ傍らに絶えずつきそっていなければなりませぬ。
  ──ほう、重力存在、は、接合、するばかりでなく、貪食、をもすると、遠い遠い接続者たる生の単細胞のそなたはいうのかな。
  ──左様で……。「もの」は食い食われる重力の奴隷で、また、永劫の薄暗い迷妄のみ重ねゆくところの全的過誤者にほかなりませぬ。 》 47-48頁

《 ──大暗黒……そのなかで《ものにならぬ未存在》のもの以前のまま停ってしまった隣の青服は、無限永劫のなかで、いわば数億劫年ごとに、青服の気をそそり牽くような大暗黒自体の無数の溜息を聞きました。大暗黒自体のついに持ちきれぬ《倦怠と不快》から数億劫年ごとに洩れでてくる深い溜息の最近の一つを、さてここで、お嬢さんにお伝えしましょう。 》 51頁

《 ──私に、その秘密な暗号が得られるのでしょうか? あなたのお隣の青服の方、《ものにならぬ未存在》のまま停まっていられる方は、やはり、虚体、なのでしょうか?
  ──いいえ、それ以前です。 》 52頁

《 ──ほう、何が、はじめて全宇宙に創出されるのでしょう……?
  ──与志さんの、虚体、です!  》 65頁

 宇宙大の壮大なるホラ話か・・・苦いユーモア・・・。未完に終わる。
 埴谷雄高『死霊 九章《虚体》論──大宇宙の夢』講談社一九九五年一二月二〇日第一刷発行、読了。
 https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000177950
 https://www.youtube.com/watch?v=tU6edsYhX9w&t=3024s
 激しい雨。