賞味期限 消費期限 (閑人亭日録)

 食べ物に賞味期限(おいしく食べられる期限)と消費期限(食べられななる時)があるように、美術作品にも賞味期限(評価される期限)と消費期限(評価されなくなる時)があると思う。鮮度が命の野菜、魚の刺身。漬物や味噌、ウィスキーのように熟成するもの。さらに長い歳月を経て芳醇な美味をもたらすもの。・・・一般大衆に一時期大いに受けたカシニョール、ヒロ・ヤマガタラッセンは、鮮度が命の野菜であり、魚の刺身。ヨハネス・フェルメールやジョルジュ・ド・ラ・トゥールは、長い歳月を経て芳醇をもたらすもの。すると、その間の、熟成するものに該当する美術品は何だろう。思い浮かぶのは、国華社や審美書院の複製木版画。その極精細多色摺り木版画は、印刷技術が遥かに進んだ二十世紀後半から、コンピュータ技術による精緻な印刷が進んだ現在の複製画に較べて遜色がない。いや、古典絵画の複製画を並べて見れば、その画面から受ける訴求力の違いを実感する。その違いは、近代の彫師摺師の卓越した技もさることながら、古典絵画への畏敬の念が自ずからなせる人間味が隠れているせいかも知れない。機械(コンピュータ)の分解能力と職人の眼力(意気込み)の、人間味のあるなしへの鑑賞者の反応=感応のせいかもしれない。