屈折 鬱屈 挫折(閑人亭日録)

 屈折、鬱屈、挫折。嬉しくない言葉が三つ並んだ。それは私の青春の代名詞。まあ、ひどい言葉だ。でも、そう。大学の卒業時、母親から懇願され、一年間地元の調理師学校へ通った。早朝、両親の営む甘味処の商品の仕込みを手伝ってから学校へ。半年後、仕込みを終えた父が心筋梗塞で急死。店をどうするか。家族、従業員のために継ぐことを余儀なくされた。葬式の時、大学の友人から「この仕事はお前には向かない」と言われた。それはよくわかっている・・・。挫折感に襲われた。鬱屈した日々、月に一度、東京の美術展へ行くことが唯一の息抜きに。
 二十代半ば、東京の知人と再婚した女性は私の第一印象を「ベトナム帰還兵のようだったわ(=根暗)」と述べた。彼女から北一明の著作『ある伝統美への叛逆』三一書房1981年初版を薦められ、読んでみた。彼女に感想を認めたところ、それを読んだ北から連絡があった。それから北との三十年余りにわたる親交が始まった。
 二十代半ば、味戸ケイコさんの絵画集『かなしいひかり』講談社1975年初版に、池袋駅東口のパルコにあった詩の専門店で遭遇。絵を見て迷わず購入。それから味戸さんの本を集めはじめた。ある本の最終頁に住所が記されており、ファンレターを投函。当然返事など期待しないまま何通か投函。しばらくしてお返事が届いた。味戸さんの絵に、深く沈み込んだ重い心が掬われた。
 味戸さんの絵に鬱屈した心が救済された。北一明の「伝統美への反逆精神」に心が奮い立った。