犯罪と社会

 加賀乙彦「犯罪ノート」潮文庫1986年読了。表紙に「犯罪者との面接ノートを通して人類永遠のテーマ"犯罪と悪"を追う。」とあるが、その犯罪者は殆どが凶悪犯つまりは無期懲役刑か死刑の囚人。大きなテーマは死刑制度への疑問。
「死刑囚は自分の気持を統御できずに、滅茶苦茶な爆発反応をおこす。かつて東京拘置所の医師をしていたとき、私は何度も、死刑囚のこのあわれな自己崩壊の姿を見た。死を思う苦痛がこれほどに激しく痛ましいものであることに私は驚きもし、暗い気持ちに引きずりこまれたものである。」「死刑制度の矛盾」1976年より
 著者は死刑の残虐性を問題視しているが、今も被害者遺族は犯人に厳罰=死刑を、だ。執筆されてから四半世紀以上経ているが、ここで提起された多くの課題は今も有効だ。つまりは何も変わっていない。
「ところで、刑務所というのは私たちと無関係な場所に見えて、実はそうではない。そこには私たちの社会生活に必要な衣食住や規則や人間関係が、非常に単純化された形ですべて見いだされる。刑務所とは社会の縮図なのだ。逆にいえば、刑務所でおこることは、すべて社会でおこるのだといえる。」
「夜や日曜日、読書や無駄話や映画鑑賞にすごす囚人たちより、いったい私たちはどれほど自由だというのか。」「無期徒刑囚としての現代人」1974年より