米澤穂信『遠まわりする雛』角川文庫2010年初版を読んだ。『氷菓』『愚者のエンドロール』『クドリャフカの順番』に続く古典部第四作。高校一年生の古典部員男二人女二人の、一年間の心模様を描いた七篇からなる短編集。前三作を読んでいると、深く味わえる。
《 一年を共に過ごせば登場人物たちの距離感は同じではいられません。いまの私は、その変化を描けていることを願っています。》「あとがき」
高校時代のことはほとんど忘れているが、こんなにませていたかなあ。
《 安く見られることは笑って流せても、高く買われることは聞き捨てならない。俺はもう一言、こう付け加えた。
「だから、俺のことを運のいいやつだと言うのは構わないが、大したやつだというのはやめてもらいたい」 》148頁
《 「これは?」
「お酒です」
それはわかる。醤油だとは思ってない。 》196頁
《 一、二分待っては一段上る。数人が横一列に並び、賽銭を投げて手を合わせ、左右に散ると次の数人が進み出る。人の視点から見ると確かに参拝だが、神の視点から見ると、仕事依頼がベルトコンベア式に運ばれてくるようなものではなかろうか。「健康で過ごせますように」や「世界人類が平和でありますように」ぐらいのスタンダードな祈りならともかく、「爺さんの病気が良くなりますように。あ、でも、気が弱くなったところは元に戻らなくてもいいです。あと、子供の受験が成功しますように。正確には私学は落ちて公立が通りますように」などの入り組んだ願いでは、先方も把握するだけで一苦労だろう。 》200頁
《 「おめでと。いいな、着物。すっごい綺麗」
「ありがとうございます」
「振袖?」
「いえ、コモンです。振袖は大学に入るまでお預けなんです」
コモン? コモンセンスのコモンか。一般用、という意味だろうか。着物の世界にも英語は押し寄せているのか。 》208頁
ネットの見聞。
《 豊肥線 復旧へ1年 》
《 阿蘇市の宮地―波野間では、トンネルからレールが外に流出。入り口で「とぐろ」を巻いていた。 》
ネットの拾いもの。
《 むしゃくしゃした日はブックオフに行く そして本棚の陰に隠れてでかい声で「いらっしゃいませー!!」と叫ぶと、 フロアにいる店員が一斉に「いらっしゃいませー!」とつられて言う これを2、3回繰り返し、気が済んだとこで店を出る。 》