『石の結社』

 荒巻義雄『石の結社』実業之日本社1979年初版を読んだ。題から壮大な伝奇小説を予想したが、 ごく普通の推理小説だった。主人公が若手画家、仲間が銀座の画廊主という具合に美術の話題が豊富で、 そちらに関心が向いた。

《 「絵を買うお客さんもさ、この頃は自分の好みで買う。決して権威だからと言ったって買わんね。 すくなくともうちの画廊に来るお客さんはそうだね。たしかに大きな商売はできなくなったよ。だが、 長い眼でみりゃ、たしかにこれはいいことなんだ。われわれが気づかぬうちに、時代が知らず知らず 変わってきてるんだな。ま、條里君、なんだな、そういう自分の鑑識眼を持つように大衆が育ったとき はじめて、君たちの芸術も本物になるだろうし、日本だってさ、正真正銘本物の文化国家になるんじゃ ないかね……」 》 31-32頁

《 セザンヌがとり憑かれたこのブルーは、彼にとって宗教的意味を持っていたと言われる。彼のブルーは、 天の象徴に他ならなかったのだ。 》 41頁

《 「ピカソよりもダリを認めてました。そしてダリよりもむしろ、デューラーやフィメル、 新しいとこではアーラゴンなんかのほうに魅(ひ)かれてましたけどね」 99頁

 フィメルはフェルメールのことだろう。アーラゴンは知らない。

《 そして万物がその”現象”へ向かって一斉に発芽しはじめるような、そしてまた自然がそこに 潜在させている全エネルギーを、現象界へ向けて放射するようなセザンヌの宇宙。 》 104頁

《 彼はJ・F・ミレーを一流の画家だとは思わない。だが、あのしっかりと大地を踏みしめて歩き、 種を蒔く農夫の構図を好ましく思ってはいる。 》 106頁

《 「ぼくの夢は,セザンヌですよ。セザンヌをもっともっとよく理解することが、いまのぼくの 生甲斐なのです」 》 189頁

 表紙には「書き下ろし伝奇推理小説」とあるので、半村良石の血脈』に触発されて『石の結社』 が書かれたのでは、と思った。「創作日誌──あとがきにかえて──」ではその気配は微塵もないが。

 ネット注文した新刊、『三橋一夫作品集成 第1巻 ジュニア小説篇 コショウちゃんとの冒険』 盛林堂書房が届く。2500円。

 未明から雷雨。バカデカイ雷鳴に目が覚める。昼前は50ミリを超す豪雨。パソコンなどの電源を抜く。 昼には晴天。暑い。ブックオフ長泉店へ。伊藤計劃×円城塔屍者の帝国河出文庫2014年初版、 西川治『マスタードをお取りねがえますか。』河出文庫2014年初版帯付、計216円。

 ネットの見聞。

《 昨日の光嶋君の発表でも言いましたが、オリンピックをめぐる最も深刻な問題は、 このイベントのトップに「失敗について責任を取る」という態度が見られないことでしょう。 成功の果実は自分が取るが失敗の責任は誰かに押しつけるというのが彼らの風儀のようです。 》 内田樹
 https://twitter.com/levinassien

《 「サブカルチャーは『美術じゃない』と評価され、結果的に自由でいられた。でも、 いまやこちらの方が日本美術の中心です。だって国民的芸術家って今ならやっぱり宮崎駿でしょう。 近代美術を扱う美術館で、藤田嗣治宮本三郎、向井潤吉らの戦争画と、漫画やアニメの資料が 一緒に見られるようにならないと、日本の近代美術を理解したとはいえないと思います」 椹木野衣 》 東京新聞
 http://www.tokyo-np.co.jp/article/culture/doyou/CK2015082902000224.html

《 重要なのは、結果を残すことです。結果がでれば、評価は後からついています。特に評価は、大抵の場合、 地域内ではなく地域の外から高まります。外が評価する事実をもとにして地域内での評価も高まるという構造です。 この順番を常に意識しなくてはなりません。 》 木下斉
 http://toyokeizai.net/articles/-/82553?page=5

《 支援者とおっしゃる方々へ、被災者の困惑です。 》 「チーム神戸」
 http://stnagata.exblog.jp/24624699/

 ネットの拾いもの。

《 将来のワープロのアプリで、あるテーマで書き始めると、すでに世間で主張されている命題一覧が瞬時に出てきて、 「そう書くとパクリになります」「こう直すとセーフです」「この方向に進めると新規性があります」 「このクオリティだと××誌に投稿掲載可能です」などと言ってくれるのが発売されそうだ。 》

《 さて、水曜なのでジムにいてくるよ。ヨガのクラスだよ。「ジムってくるよ」とは書けても「ヨガってくるよ」 とは書けない日本語の深淵。 》