『雪の練習生』

 多和田葉子『雪の練習生』新潮文庫2013年初版を読んだ。紹介文。

《 サーカスの花形から作家に転身した「わたし」。娘の「トスカ」、その息子の「クヌート」へと繋がる、 ホッキョクグマ三代の物語。 》

 まあ、そうなんだけどね。三代のホッキョクグマが書き手の「祖母の退化論」「死の接吻」「北極を想う日」の三篇。 佐々木敦は解説で書いている。

《 多和田葉子の小説はいつも不思議だけれど、これは中でもひときわ不思議な小説である。 》

 筋書きなどは他の人に任せて、気に入ったくだりをいくつか。

《 正確に言えば、わたしが作家になったのではなくて、書いた文章がわたしを作家にしたのだった。結果が結果を生んで 次々、自分でも分からないところにどんどん引っ張られていく。それが作家になるということならば、玉乗りよりもっと 危険な芸なのかもしれない。 》 「祖母の退化論」 43頁

《 プラハには昔会議で一日行ったことがあるが、カフカという名前はこれまで聞いたことがなかった。プラハには 春が来た。でもそのずっと前に生まれた作者は、ソ連が成立するよりももっと前から、まわりの人間たちが自由でない ことを見抜いていた。 》 「祖母の退化論」 83頁

《 しかし、小国に来た大国の熊たちの側の辞書には「踏み込む」という言葉はあっても「歩み寄る」という言葉はない。  》 「死の接吻」 110頁

《 職種によっては何ヶ月も子供の顔を見ない女性もいた。母性愛という神話が囁かれることはごく稀だったし、宗教は 弾圧されていたので、聖母マリアが幼子イエスを抱く絵も見たことがなかった。 》 「死の接吻」 117-118頁

《 日本では浅草というところでウルズラが桜の舞い散る派手な模様の浴衣を買った。わたしも浴衣が欲しかったが 保護色の白以外の色を着ると不安になるので、売り子さんに「真っ白い浴衣ありますか」と聞くと「幽霊大会かい」と 驚かれてしまった。日本では白熊の幽霊ではなくて人間の幽霊も白い服を着ているそうだ。 》 「死の接吻」  201-202頁

 ウルズラは書き手の熊トスカの女調教師。

《 せっかく外に出られたともって喜んでいたけれど、動物園にはまたその外があるのだ。どこまで行ったらそれ以上、 外に出られない究極の外に行き着くんだろう。 》 「クヌート」 278頁

《 数人がわっと笑った。「見ている人たちのうちどのくらいが彼女の本心を理解したかな。何しろ、ひねり、皮肉、諧謔、 風刺の分からない人間が増えたからね。」 》 「クヌート」 303頁

《 「新聞に書いてあることは嘘が多いから読むのはやめたよ。 」 》 「クヌート」 318頁

 小川洋子博士の愛した数式』同様すっ飛んだ設定がうまく機能している。当時の共産圏や西ドイツの事情が絡んだ話題に、 現地の読者はどんな反応を示すのだろう。複雑な眼差しが感じられる。翻訳されていれば、の話だけど。

 昨日ほど寒くはないが、降ったり止んだり晴れ間がのぞいたり、雷雨になったり。春は気まぐれ。
 雨が上がったので近くの本屋へ。出たばかりの小泉喜美子『痛みかたみ妬み』中公文庫初版帯付を購入。裏表紙の惹句。

《 息詰まる駆け引き、鮮やかなどんでん返し──人生の裏も表も知る大人のためのミステリ。 》

 行き届いた日下三蔵の解説も心に残る。ついでに『週刊ダイヤモンド』も買う。美術特集。

 その人を気にかけている(忘れていない)ことをその人に知らせる(例えば誕生日にメールを送る)ことの重要性を思う。 いちばん惨めな女は忘れられた女です、とはフランスの詩だったか。きょうの天気にそんなことを思った。

 ネット、いろいろ。

《 リス:餌を見つける→春になったら食べようと思い、土に埋める→わすれる
  ヒト:本を見つける→暇になったら読もうと思い、本棚に入れる→わすれる 》 米澤穂信

《 「除染が終わった」というなら、国会も省庁も双葉郡に移転して、関係者全員、家族と共に転居すれば良い。 結局、除染に名を借りた、関係者の金儲けではないか? 「復興」を美しい建前として、本音を隠しているだけではないのか。  》 春橋哲史
 https://twitter.com/haruhasiSF/status/845882073114062853

《 あるところにおじさんとおばさんがすんでおりました。おじさんは街へオヤジ狩りに、おばさんは霞ヶ関に忖度に (文章はここで途切れている 》 嘉田 勝
 https://twitter.com/kadamasaru/status/845804954384134145

《 第5回「ガンジーでも助走つけて殴るレベル」を上回る神フレーズ選手権の結果を発表します。

  最優秀賞
  「林先生が今じゃない!って制止するレベル」

  金賞
  さかなクンが「この雑魚が!!」と罵るレベル

  高齢の住職賞
  「伊能忠敬が隣町で引き返すレベル」

  です。おめでとうございます!! 》 坊主
 https://twitter.com/bozu_108/status/845811423573794816

《 ツイッターの年齢制限の事は判らないが、本アカウントが、なち13歳と称する事が難しくなったというのはわかった。 》