『異郷の昭和文学』二(閑人亭日録)

 川村湊『異郷の昭和文学──「満州」と近代日本』岩波新書1990年初版を読み進める。

《 島木健作は、和田伝のように、”既墾地である開墾地”といった奇妙な虚構性に惑わせられることなく、開拓民の入植した土地が、満人農民から何らかの手段で購入 あるいは交換された土地であり、そこで自作農が小作農に転落し、「民族協和」の掛け声による日本開拓民の入植が、先住の満人、朝鮮人にとって侵略的なものであった ことを正確に指摘しているのである。 》 「I 大陸へ──開拓と建国」 55-56頁

《 大陸開拓というスローガンに先導された満州開拓民たちは大陸文学、開拓文学という鳴物入りの文学に後押しされてやって来たのだが、敗戦とともにこぞって日本へと 潰走していった。つまり、日本人たちは満州へとどっとやって来て、どっと引き揚げていったのだ。彼らの足跡はいったい何なのだったろうか。 》 「I 大陸へ── 開拓と建国」 60頁

 そういうことだったのか。長年の疑問が氷解した。「II モダニズムと郷愁──大連」を読んだ。清岡卓行の詩『円き広場』への論及。

《  これは「円」という完璧なる図形のイメージを際立たせることによって、詩作品の世界そのものを、球体の小宇宙として完結させようとしているものということが できるだろう。
   遠心力によって外側に広がって行きながら、しかも求心力によってまたすぐに内側に引き戻される。膨張と収縮の均衡の中に、力のみなぎった静止の一瞬があって、 それは「真夏の正午」という絶対的な時間の停止を指し示しているのである。 》 90頁

 ほとんどそのまま北一明の茶碗に援用したくなる文章だ。「 III 偽りと幻の新都──新京」を読んだ。

《 坂口安吾の長編小説『吹雪物語』の書き出しは、「一九三×年のことである」とある。 》 100頁

《 もちろん、私はここで『吹雪物語』論を語るつもりでも、坂口安吾論を行うつもりでもない。一九三〇年代の精神状況を表す一つの例証として、坂口安吾の作品を ひきあいにしてみただけに過ぎない。いつの時代にも、男女の恋愛の葛藤、個人的な悩みと苦しみの世界はあり、それはどんな社会的な問題や歴史的状況にも還元できない 個人的な問題としてある。しかし、そうした「個人」の問題を深く追求した文学にも、また時代の状況は影を落とさずにはいないだろう。 》 101頁

《 すなわち、日本があくまでも満州国を植民地ではなく、独立国であると主張するならば、そこにいる日本人は、満州国に”帰化”して、純然たる満州人とならなければ ならないし、むろん、それは五族、蒙古人や朝鮮人などともまったく同じような法制度によって国家に統制されなければならないはずだったのである。 》 134頁

 「 IV 民族の軋み──奉天・ハルピン・蒙彊」を読んだ。

《 つまり、民族意識や国家意識において、満州の日本人たちは、島国の単一民族国家観をそのまま持って行ったのであり、複合民族国家という現実が、単一国家観という イデオロギーを、どのような意味でも喰い破るといったことはなかったのだ。それはむろん「五族協和」「日満協和」というスローガンが、やはり画上の餅にしか 過ぎなかったことを表しており、植民地主義帝国主義的侵略の建前でしかなかったことを無残に証言している。民族協和の夢など、満州国の現実の中には、本当はどこにも なかった。 》 175頁

 「 V 子供たちの満州」を読んだ。

《 なぜ、開拓団は関東軍が逃げ出し、満州国政府が崩壊するやいなや、満州人によって襲撃されなければならなかったのか。むろん、それは日本人の開拓団そのものが 敵意と怨嗟と憎悪とによってとり囲まれていたということを表しており、民族の協和や「王道楽土」といった理念が、むしろ完全に裏切られたものとして現実にはあった ことを意味している。そういう意味では、開拓団の受難は、日本の満州開拓という国策の必然的な帰結としてあったのである。 》 193頁

《 満州人にとっての神、自然は、日本人にとっての神や自然と異なっていた。むろん、満州の土地や水の神を怒らせないようにしなければならなかったのは、新参者の 日本人のほうの責務であったのだ。しかし、日本人はその開拓の方法においても、敬虔さや謙虚さをあまりにも忘れはてていた。つまり、日本的な価値観、日本的な風習を 持ち込み、それを先住の民族たちに押し付けようとしたのである。 》 196頁

 「終章 見えない国境線」を読んだ。川村湊『異郷の昭和文学──「満州」と近代日本』岩波新書1990年初版、読了。いやあ役に立った著作だ。私には名著。

 一日雨。体はのんびり。オツムはそれなりに。読書がゆっくりできた。

 ネット、うろうろ。

《  読めるぶんだけ買う。
  なぜかそれができない。 》 花本 武
  https://twitter.com/takeshihanamoto/status/1219538581808533504

《 昨日お伝えした雑誌中止の件ですが、『ムー』愛読者である学長の怒りに触れ、予算増額と共にすべての雑誌継続が出来ることになりました。 この度は利用者の皆様、関係者の皆様にご迷惑をおかけし、申し訳ございませんでした。今後とも利用者の立場に立った運営に努めてまいります。宜しくお願いします。 》  国際信州学院大学附属図書館
  https://twitter.com/miura_librarian/status/1220150584331780096

《 現代美術駆け出しの頃、アレがどうだのコレがなんだの、ウンチクうるさく考えてたしその思考が正しいと信じてた。そしてプロになりもう20年やってると、 ほとんど透明で、ほぼ何にも考えてないに等しくなってきていて、それが本当のクリエイションだな、と思ったりする。 》 takashi murakami
  https://twitter.com/takashipom/status/1220017951249616896

《 「麒麟がくる」今夏は「麒麟ビールがくる」という予想からの題名という説がありますがNHKが民間企業の後押しをするのは考えられないのでこれは多分ほかの ビールメーカ一が流したフエイクだと思います。ラストが「山崎の戦い」になるという説あたりにそのメ一カーを特定できるヒントがありそうですが 》 山田正紀
  https://twitter.com/anaryusisu/status/1219213591934464002

《 凄いですね安倍首相。社会保障に回せた税金をドブに捨てたキャッシュレス還元策について、何と「4割の事業者が効果があったとしている」と、 如何にも成果が上がっているように強弁しましたが、それらを大きく上回る「61%」が「効果なし」と答えているのは無視ですよ。 》 異邦人
  https://twitter.com/Narodovlastiye/status/1219877588765573122

《 ちょっと待ってくださいよ、 #安倍首相 。演説で、島根県江津市に移住した男性を紹介したときは実名でしたけど、それはプライバシーに関わらないわけですか? で、県外に転出していたことは「個人的な事情などプライバシーに関わり、お答えは差し控えさせていただく」? 》 齊藤信宏
  https://twitter.com/nobusaitoh/status/1220197806071107585

《  2020東京五輪が露わにした日本の今

  犯罪的な見積もり詐欺も国なら許される
  そしてとにかく決まれば従う奴隷根性
  国威発揚のためなら予算はジャブジャブ
  でも中抜き天国で末端労働者は地獄
  政治家の脳味噌は未だに昭和の高度成長期
  予算かけてもまともな建物が造れない

  これは衰退途上国ですわ。 》 愛国心の足りないなまけ者
  https://twitter.com/tacowasabi0141/status/1219580584969695232

《 ‏焼きたての陶器、貫入の入る音が好き 》 兎
  https://twitter.com/Usaginorara1/status/1219923979848142848

《 定時退社するときこんな感じ 》 スティルマン
  https://twitter.com/lp_stillman/status/1219224159609217024