アラマタ、アカセガワ、ハシモト、ヤマダ、

 昨日の新聞記者の質問に答えて、水木しげるの略歴などを本人に成り代わって話した後、美術館の狭い本棚を眺めて荒俣宏『漫画と人生』集英社文庫1994年初版に手が伸びた。「妖怪はなぜ数が多いか」を読んで、や、面白〜いと感心したら、初出がちくま文庫の『妖怪たちの物語』1986年の解説だった。

≪戦後まんがの発展したプロセスを眺めると、手塚治虫から石森章太郎に至るメインストリームと、さいとうたかお辰巳ヨシヒロ、さらに楳図かずお棚下照生等の貸本=劇画サブストリームを通じ、その視線の原点は映画(キネマ)にあった。これにはウオルト・ディズニーのアニメを含んでも構わない。≫

≪これに対し、水木しげるのまんがは基本的に「ファイン・アート(絵画)」を原点とした。端的に言って、水木まんがではキャラクターとか動きとかいうよりもまず、背景が問題だった。画像が図と地とに分かれるとすれば、地を熱心に描き込む方向なのだ。≫

≪水木まんがは日本まんが史上最初に西洋の幻想絵画と各種の銅版画を画面に堂々と持ち込んだのである!≫

 スカッと展開する講談的論述にうまく乗せられてしまう。上手いわ。深いわ。脱帽だわ。

≪現在大ブームを捲き起こしている『ゲゲゲの鬼太郎』にあって、その「百鬼夜行」的魅力のオリジンとなっている化けもの妖怪が、「妖怪たちの物語」には集められている。≫

 『漫画と人生』では≪かつて大ブームを捲き起こした≫と書き換えられている。1994年にはブームは去っていたか。

 荒俣宏赤瀬川原平橋本治山田五郎。この四人は、美術と文学を横断した幅広い視野からそれまでにない美術観の地平を切り開いた澁澤龍彦種村季弘の衣鉢を継ぐ人たちだ。瞠目すべき仕事をしている。この六人と同時代を生きてきたのは運がよかった。

 ブックオフ長泉店で二冊。大竹昭子須賀敦子ヴェネツィア河出書房新社2001年初版帯付、『豪華版 世界文学全集 25 ロレンス』講談社1978年3刷、計210円。