昨夕帰りがけにブックオフ長泉店で二冊。佐々木譲『警官の紋章』角川春樹事務所2008年初版帯付、カトリーヌ・アルレー『わらの女』創元推理文庫2006年新版初版、計210円。『わらの女』は丸谷才一・三浦雅士・鹿島茂『文学全集を立ちあげる』文春文庫で選ばれていた。
ネット注文した古本、J・ウェブスター『あしながおじさん』サンリオ・ギフト文庫1975年が届く。定価700円が売価 1500円だけれど、ずっと欲しかった本、新刊と思えば高くない。来年、サンリオと雑誌『詩とメルヘン』の企画展を考えている。2004年の企画展の拡大版。
ウィリアム・アイリッシュ『幻の女』ハヤカワ文庫1991年24刷を再読。1942年の発表。戦時中にこんな本が堂々と出るとは、さすがアメリカ。ニューヨークを舞台に、一晩一緒に過ごした女を見つけ出さないと、彼の妻殺しの容疑は晴れないし、死刑を執行されてしまう。その日は刻々と近づいてくる。彼の立ち寄った場所では誰もが彼を見ているが、彼一人だけ、女は知らない、見なかったの証言ばかり。そして死者の列。どこに打開策が見出せるのか。最後に明かになる驚愕の真相。久しぶりの再読、真相をすっかり忘れていた。堪能。傑作だ。
《 夜は若く、彼も若かった。が、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった。》
に始まる嫋嫋たる文章に今回も乗せられた。訳者の稲葉明雄が解説で書いている。
《 『幻の女』の舞台はニューヨークであるが、ここにはメイシー百貨店もタイムズ・スクウェアもハーレムも描かれてはいない。しかし、わたしたちはそこに、むんむんするほどのニューヨークの街の匂いをかぎとった。》
劇場のミュージシャンたちが仕事を終って、音が外に漏れない地下室で好き勝手に演奏をする場面がある。
《 つづく二時間は、ダンテの描く地獄そこのけであった。これがおわったあとも、実際にあったこととはとても信じられないだろう、と思われた。それはてんで音楽ではなかった。音楽はもっと快いもののはずだ。それは、かれらの影がうつしだす魔の走馬燈であった。影は黒々と浮かびあがり、四方の壁の天井までふくれあがって揺らめいた。それはまた、なにかにとりつかれたような、悪魔的な、かれらの現実の顔であった。突如、ある音色がひびくと同時に、あちこちに顔がつきだされたり、ひっこんだりした。》214-215頁
《 熱病にくるったサキソフォン吹き 》 怒涛のアンダーグラウンド・ジャムセッション。バップが誕生する前の胎動を感じる。
《 「おい、明日の第二レースは、かならず取ってみせるぜ。確かな情報がはいったんだ」
「確かな情報ってやつぐらい、あてにならないものはないんだがな」と、乾いた返事がかえってきた。》207頁
《 「なんだい、いったいおれは、あの女の舌のために料理をこさえてるのか、風呂場であの女がのっかかる台の目盛りのご機嫌をとるためにこさえてるのか、わかったもんじゃねえや!」 》245頁
安藤信哉展、早々と問い合わせの電話。どう行きますか? まだ幻のK美術館……。