「重ねと響き」(閑人亭日録)

 一昨日の椹木野衣(さわらぎ・のい)氏もそうだが、白い長机を□の形に並べて配された千個の小さな立体作品をみなさん、何周もされて迷い迷い、一箱に収める四個を選ばれる。これほどに迷われるとは。傍から見ていて可笑しくてかわいらしくて、内野さんと二人、ついつい笑みがこぼれた。んなことを思い出しながら、人はこの小さな立体造形作品のどこに惹かれるのだろうと、ふと思った。何年か前は、同じ三センチ四方の木片ブロックに細やかな絵柄を施した作品だった。草花、文様などが描かれていたモノを、開店祝いや何かの記念にお客さんに贈るよう、百個作って贈っていた。それが二年余り前、私が源兵衛川から回収してきた茶碗のカケラ(三島市ではチャンカケと呼ぶ)を「使えそう」と、内野まゆみさんは気づき、大きいカケラは少し割って小さくし、彼女の気に入ったカケラを洗浄剤(ハイター)に二週間漬けて洗浄。カケラの断面にアクリル絵具の金で色付けし、彩色した木片にそれを貼る。裏側に磁石を接着して完成。と、書けば簡単そうに見えるが、内野さんは板に同じ絵柄を描くのはキライ。千個余り、どれひとつとして同じ絵柄がない。茶碗のカケラも同じものはない。一個一個が独立した一個の作品。千載一遇、選ぶのに悩むはずだわあ。この個展用に「美は切片に顕われる」という拙文を書いたが、展示を無事終えてやれやれと休んでいる午前、ちょっとした言葉が浮かんだ。
 「重ねと響き」。
 彩られた木片に重ねられた茶碗のカケラが響き合う・・・重ねと響き。