櫻画報永久保存版

 赤瀬川原平『睡眠博物誌 夢泥棒』新風舎文庫2004年初版、松田哲夫の解説から。

≪赤瀬川さんは、当時、白土三平さん、水木しげるさん、つげ義春さん、滝田ゆうさんなどが傑作を発表し続けていた「ガロ」に影響をうけ、独自の漫画的作品を描くようになる。それが、「櫻画報」(「朝日ジャーナル」連載)や「現代○○考」(「現代の眼」連載)などである。≫

≪「櫻画報」はその後の展開も含めて、『櫻画報永久保存版』(青林堂)として、一九七一年にまとめられた。≫

 この『櫻画報永久保存版』は松田哲夫の編集。

 『睡眠博物誌 夢泥棒』の赤瀬川原平のペン画の挿絵は、じつにシュールで不気味な殺気を秘めた底なしの静けさが満ちている。底なしのニヒリズムというような。あるいはニヒリズムの底。傑作だ。そんな場所から描かれた稀代の傑作マンガが「お座敷」(『ガロ』1970年6月号)だ。防護ヘルメットで顔の分からない(個人としての顔が無い)機動隊員たちの群れ。この最後の場面では、機動隊員たちは海辺の地べたでゴロゴロとくつろいでいるが、『櫻画報永久保存版』では死体のゴミ山と化している。顔の無い死体。これは、今でもじっと見られない。ニヒリズムの底を見てしまった、おぞましい感覚だけがぞっと肌に残る。これに較べると、藤田嗣治戦争画は、なんと人間的なのだろう。個人ひとりひとりがしっかりと生き、死んでいる。

 『睡眠博物誌 夢泥棒』は1975年に出版された。松田哲夫は解説に書いている。

≪それにしても、この奇妙な本は、なぜ、この時期に書かれなければならなかったのだろうか。≫

 きょうの『ゲゲゲの女房』は1966年、『悪魔くん』のテレビ初放送の場面。夜、宴席を抜け出て、水木しげるは世話になった東考社桜井昌一へお礼の電話をかける。うーん、泣ける。展示する古本を展示室の床に並べる。桜井昌一の貸本漫画『怒りの街』すずらん出版社を手にする……。