「 日本の伝統 」

 岡本太郎『日本の伝統』光文社知恵の森文庫2006年2刷を読んだ。これはシビレル。元気 づけられた。岡本太郎、彼の作品には首をかしげるが、文章には首肯する。1956年の刊行。 今もって鮮度が落ちていない。名著だろう。省みれば、時代は進化していない、か。

《 だがひさしく鑑定家と批評家が混同されています。今日の批評家のほとんどが、 批評ではなく鑑定をしている。しかもそれがあたかも芸術的価値にかかわりあるかのように、 おのれじしんに錯覚し、一ぱんにおしつけているのです。 》 57頁

《 過去は現在が噛みくだき、のりこえて、われわれの現実をさらに緊張させ、輝かすための 契機であるにすぎません。現在が未来に飛躍するための口実なのです。つまり、かんじんなのは われわれの側なので、見られる遺物のほうではない。 》 60頁

《 すべての古典はそれぞれの時代に、あらゆる抵抗にたいして現在を決意し、たくましい 生命力を充実させた精神の成果です。過去の権威によりかからず、おのれを卑下せず、 はげしく生ききった気配にあふれています。そういうものだけが伝統として、精神的に、 肉体的に、われわれ現在を決意したものにびりびりつたわってくるのです。 》 65頁

 縄文土器への視線。

《 しかし、たんに三次元の立体として、彫刻的に、芸術として観賞しようとするなら、 それはまた現代的な観念で、きわめて素朴です。むしろ私はこの土器の異様な神秘性に 注目したい。たんに上っ面を見るだけでなく、日常の約束をこえた、超自然的な、つまり 四次元的性格に考察をすすめなければ、この文化を正しく理解することはできないのです。  》 88-89頁

《 日常の用具である土器の形態から模様にいたるまで、厳格なイデオロギーを になわされていると考えなければなりません。それが実用的な目的だけで作られている のではないことは、形態を見れば一目であきらかです。そしてまた、あの複雑で怪奇な 縄文式模様が現代の”芸術のための芸術”のように、たんに美学的意識によって 作りあげられたのではないこともたしかです。それは強烈に宗教的、呪術的意味を帯びており、 したがって言いかえれば四次元をさししめしているのです。 》 92頁

 北一明の茶碗、器への言及かと勘違いする……。北一明の創った用語は(神餞に替わる)民饌。

 尾形光琳の絵への視線。

《 光琳芸術の相反する対極はたがいにすこしも譲歩していない。この非妥協は矛盾に 極度の緊張をあたえます。はげしく対立する力の均衡は絶対静止の相を帯び、瞬間に 時空が解消するのです。(中略)だが、絶対静は絶対動を想定します。それは死であり、 まだ同時に生なのです。だから動・生の相として見れば、矛盾ははげしい相克の姿となって 現われ、緊張した高揚のリズムが鳴りひびきます。 》 131頁

 北一明のデスマスクを思う。

《 画面をとおして、ぐんと撃ってくるものにただ圧倒される。強力なデーモン(魔性) の気配です。(中略)──じっさいにすぐれた作品に接するとき、だれでもがとりつかれる 超自我的なセンセーションです。 》 138頁

 北一明の書の大作を思う。

《 いずれにせよ、デーモニッシュな緊迫感こそ芸術の内容であり、装飾の目的をこえて、 それは不快でさえある。しかしそれがまた快以上の戦慄的な快なのです。複雑な アンビヴァランスです。ここにたくましい芸術の意味があるのです。 》 138頁

 北一明の作品、とりわけデスマスク群に接したら、岡本太郎はどう思っただろう。
 後半は中世の庭園について。これまたすこぶる刺激的でおもしろい。それは明日に。

 ブックオフ函南店へ自転車で行く。池澤夏樹・編『本は、これから』岩波新書2010年初版、 井筒月翁『維新侠艶録』中公文庫1988年初版、服部文祥・編『富士の山旅』河出文庫2014年初版、 姫野カオルコ『ああ、禁煙VS.喫煙』講談社文庫2013年初版帯付、計432円。

 ネットの見聞。

《 『教皇ヒュアキントス ヴァーノン・リー幻想小説集』 》 国書刊行会
《 いにしえへのノスタルジアを醸す甘美なる蠱惑的幻想小説集。 》
 http://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336058669/

 表紙の絵は、林由紀子さんの手彩色銅版画(ビュラン彫)「ペルセポネーの花と闇」2014年。 林さんに電話して本を予約。

《 高江ヘリ発着場 運用開始へ 》 NHKニュース
 http://www3.nhk.or.jp/lnews/okinawa/5095095131.html

《 昨日の日米合同委員会で、日本政府が高江に新しくつくった2つのヘリパッドを 米軍に提供することで合意したという発表があった。北部訓練場過半の返還前に先行的に 新ヘリパッドの運用を始めたら負担軽減どころか負担増大だ。先日、提供前に米軍が勝手に 使ったことの「追認」のような気がしてならない。 》 布施祐仁

《 思考を形式に順応・適応させた人物の見本が、原子力規制委員会の委員長だと思います。 「私は現行の基準に個々の原発が適応しているか否かを判定するだけ、安全だとは言っていない」と 自分の責任を回避し、再稼働した原発で将来事故が起きても「私の責任ではない」と公言しています。  》 山崎 雅弘

《 なんで北朝鮮の人質は奪還しないの? 》 ネットゲリラ

 ネットの拾いもの。

《 他人探しの旅。 》