きことわ

 朝吹真理子『きことわ』新潮社2011年初版を読んだ。二十五年前、高校生だった永遠子(とわこ)と小学生だった貴子(きこ)が四十歳と三十三歳になって再会する話。貴子(きこ)と永遠子(とわこ)で「きことわ」。

《 過ぎた時間のことをかまえてはなしはじめれば、二十五年の歳月を互いに要し、現在にたどりつくまでに半世紀かかる。》53頁

 なんとも不思議な小説だ。二人ですごした二つの時が語られるだけ。不思議というのはその文体。ひらがなの多い、今までに読んだ記憶のない文体だ。先行小説の『流跡』の宣伝文が言い当てている。

《 定まらずに流れつづける生のかたちを圧倒的文体で揺らぎのままに描きだす、大型新人による瑞々しく鮮烈なデビュー作。》

 体感的文体というか。定まらぬ距離感。内感覚のゆらゆら感。

《 身体が内側から裂けてゆくような、ばらばらの感情が湧いていた。》115頁

《 樋を打つ雨音に違いないはずが、それが死者か面影かそれともべつのなにかの音であるように永遠子は聞きなしていた。》132頁

 一昨日の毎日新聞山崎正和による苅部直安部公房の都市』講談社の書評の結びを連想。

《 グローバル化とIT化の世界は、人の居場所がどこにもありどこにもない世界である。居場所を実感するために、視覚よりも身体感覚に頼らざるをえない茫漠は、今やかつてなく切実に身辺に迫っているのである。》

 ネットのうなずき。

《 日の丸君が代を国旗国歌と定めただけでこんなに崇拝を強要されるんだから、天皇を元首に定めたら、我々はどれだけ天皇への崇拝を強要されるのか、想像するだに恐ろしいね。》

 ネットの拾いもの。

《 神様は文系を作った。文系に神様は、卒論を書かなくとも卒業できる学科、授業に出なくとも単位がもらえる科目を与え、彼らに自由な大学生活を与えた。天使が言った、神様、これでは文系が恵まれすぎています、と。神様はこう返した、「大丈夫、彼らには就活を与えておいた」 》

 毎日新聞きょうの川柳。

《  斜に建てりゃもっと人気のスカイツリー  佐世保 火縄銃  》